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今月のセミナー

-関西空港調査会主催 定例会等における講演抄録-

高松空港の現在地とこれから~空港から人と街を元気にする!~

小幡 義樹 氏

高松空港株式会社 代表取締役社長

●と き 2025年9月3日(水)15:00~16:00

●ところ 大阪キャッスルホテル7階(菊・桜の間)

はじめに

 高松空港株式会社の社長を務めております、小幡義樹でございます。私は1964年に長野県で生まれ、高校卒業まで長野県の片田舎で育ちました。そして東京都立大学に進学し、1988年に三菱地所という不動産会社に就職、現在に至っています。
 40代ぐらいまでは、不動産会社の中でも文字通りの不動産業に従事していたのですが、40代後半辺りから、不動産仲介会社の社長を仰せつかりました。その後、またいろいろな業務を経て、東京の丸の内にある三菱一号館美術館の運営を行う美術館室という部署に配属され、そこで約2年3カ月、美術館の運営に携わっておりました。
 そして、ある日呼ばれて、「高松空港に行ってください」と言われました。空港の仕事には不動産業の要素ももちろんあるのですが、サラリーマン生活も終わりに近づきつつあり、最後の方はいろいろな仕事をさせていただきながら楽しくやっているところです。
 今日は大勢の皆様にお集まりいただきました。あまり皆様のお役に立てるような話ができるかどうか分かりませんが、「高松空港の現在地とこれから」というテーマで、お話しさせていただきたいと思います。

高松空港の現在地 

高松空港の概要
 高松空港は1989年に開港しました。もともと高松市中心部からもっと近い所に位置していたのですが、小さい空港だったのでジェット化するため、現在地である高松市香南町という、高松市の中心部から約15㎞離れた場所に移りました。昨年には開港35周年を迎えています。
 高松空港は標高185mの場所にあります。四国の中では松山、高知、徳島の3空港が全て海辺にあるのに対し、唯一高台に位置しており、例えば南海トラフ大地震などが起きたときに津波の被害を受けにくくなっているということで、災害時の拠点になる空港としても位置付けられております。滑走路は2,500mが1本です。
高松空港の航空ネットワーク 
 路線は、国内線(ピンクの線)では羽田線が一番多く1日13往復あります。全日空が7往復、日本航空が7往復です。1往復少ないのは、全日空の1往復が羽田から昼前に来た便がお昼頃に那覇に向けて往復する分が入るからです。全日空、日本航空共に、高松から見ると7往復ずつ運航していただいていることになります。
 10数年前から、成田空港からジェットスタージャパンが就航しています。今は1日2便の日と、週末中心に3往復飛んでいるというのがこの夏ダイヤまでです。先日ジェットスターの方が来られ、「国際線へシフトしていくので、国内線を少し減らします。冬ダイヤは2.5往復でしたが高松空港さんも2往復にさせてもらいます」という残念なお知らせが届いたところです。

 国際線の方は、一番最初にアシアナ航空のソウル線が就航し、これが1990年代からずっとあります。後でも話しますが、2010~11年ぐらいから上海、台北、香港といった他の路線ができています。
 この図をつくったときに漏れがありました。ソウルのところに「AIR SEOUL(エアソウル)」と書いてありますが、昨年からもう1社、ジンエアーも入っています。これらはいずれ統合すると思いますが、今はソウル市にあるということで、1日2往復のソウル線が飛んでいる状況です。
高松空港の内際旅客数の推移
 旅客の推移です。昨年度(2024年度)の総旅客数は213万人でした。内訳は、国内線が165万人、国際線が48万人です。コロナのときに激減したのですが、コロナ前の2018年度を見ると209万人で当時の過去最高だったことが分かります。ちょうど民営化を始めた年で、民営化の1年目に最高を記録して、2019年度もこれを超えていく勢いだったのですが、後半はコロナ禍となり失速して202万人に終わりました。
 今年度(2025年度)の目標も右側に入れています。毎年2月末、航空局に年間の計画を提出するのですが、年末ぐらいまでの情報で1月・2月辺りで機関決定をしています。国内線は2024年度が165万人という実績なのに、目標が164万人になっています。
 実は今年の2月・3月で国内線が非常に伸びてきて、今もその勢いは多少継続しているのですが、昨年度はその前年であるコロナ後の2023年最初の伸びがあまりなかったものですから、2025年度はやや弱気の164万人目標で提出していたのです。
 ところが今年の上期の状況を見ていますと、2024年度を上回るペースできているので、164万人を超え、170万までいくかどうかは分かりませんが、少し上積みされると思います。
 一方で国際線は、2024年度実績は48万人で、今年度目標を55万人に設定していましたが、昨年度期中に増便した路線や新規に就航した路線があり、そのまま通年で55万人はいくだろうという考えでした。
 しかし、今年度は、香港で広まった大地震の噂がきっかけと思われますが、香港だけではなく、韓国、中国、台湾、それぞれにおいて搭乗率がこの6月・7月・8月にかなり落ち込んでいます。その影響を受けて、運休にはならないまでも、9月・10月・冬ダイヤにかけて、いくつかの路線で何日か運航を減らすというような話をしているところで、55万人という目標達成は難しそうな状況です。
高松空港の内際旅客数の全国ランク
 全国の空港の中で、高松空港の旅客数はどんな位置付けになっているでしょうか。
 旅客数の内際合計は18番目です。この統計は2023年度の国交省の空港管理状況調書から取っています。最近2024年度分が出ましたが、2024年も順位は変わりませんでした。
 国際線は成田、羽田、関空、福岡、中部、新千歳、那覇といった大空港がまず桁違いで上位にいまして、その次が仙台、そして高松です。2024年度も同じ9位になったようです。地方空港の中では高松の上に仙台がいるのですが、おそらく熊本が高松の上にくるだろうということと、彗星のように現れた神戸空港が上に行くので、多分2025年度は熊本と神戸が上に行く分、11番目辺りに落ちるのではないかと予想しております。
 ただ、スライドの下にも書きました通り、国際線の比率がおそらく地方空港の中では一番高い空港だと思います。以上が空港の概況です。
事業損益の状況
 会社の損益状況です。ここまで全部出す必要もなかったのですが、たまたま社内の打ち合わせでこの表があったので貼らせていただきました。
 上の行に旅客数があり、営業収益、営業費用などが示されています。民営化の1年目~2年目は、売上高が年間22億円くらいでした。当初から、最初は営業利益ベースでも赤字スタートで、減価償却が非常に多い業態なので、5億円ぐらいのマイナスからのスタートでした。
 これが、2023年度にコロナから脱して19億円になり、昨年度(2024年度)は約27億円にまで増収しました。今年度は少し国際線が弱含みなのでどうなるか分かりませんが、29億円ぐらいまでまた伸びるだろうという予想を立てていました。
 しかし営業利益のところ、2023年度が▲5億8,500万円で、2024年度に少し改善したように見えるのですが、資産性のない、要は減価償却に持っていかないような、その年その年で落としていく工事が多い年と少ない年があるので、2024~25年度に一気に‟期ズレ”を生じました。
 従って、4億1,800万円(24年度の赤字額)と6億8,400万円(25年度の赤字予想額)を足して2で割ると、やはり5億円台半ばの赤字になるわけで、それが今の私どもの会社の実力です。

 売り上げが増えているのになぜ赤字が減らないのかというのは、外注費や燃料費なども含め諸々のコストが非常に上がってきているからです。普通はコストが上がってくれば、それを価格に転嫁していくのですが、空港では難しいところがあります。
 例えば、今、テナントさんと家賃を少し値上げさせてくださいといった交渉は行っています。そこは価格転嫁させていただくのですが、着陸料や施設使用料といった部分でなかなか簡単に価格転嫁ができない状況になってしまっています。そこはやはり何とかしていかないと、ずっと赤字の幅を拡大していくことになるだろうと、大きな課題として認識しているところです。
 航空会社さんから見ると、国管理空港を利用しているので、着陸料などは公租公課であるとおっしゃっています。我々は税金を取っているわけではないのですが、やはり公租公課の減免がないと厳しいという話が航空会社さんからは出ています。
 しかし、そうは言いましても我々の方でもどんどん滑走路の維持管理コストは上がっているわけです。だからそこを何とかしていきたいという思いはあります。
 「コンセッション空港は着陸料などを自由に上げ下げしてよい、着陸料を安くすることによって新しい航空会社の誘致などができる」というようなことが、10年近く前の国交省のビデオでも謳われていいます。
 しかし、実際にやってみて実感したのは、着陸料を下げてもあまり航空会社にとってインセンティブにはならないということです。ただし着陸料を上げると航空会社は離れてしまうでしょう。上げたことはないので分かりませんが、雰囲気としてはそう感じられるので、これは非常に難しいなと思います。
 従って、希望としては国管理空港の着陸料を値上げしてほしいとは思っているのですが、そう簡単な話ではありませんし、航空会社もいろいろと厳しいということで、さまざまな議論が今なされているので、注目しているところです。

民営化前から現在まで 

香川県の観光産業の問題意識(2010年頃)
 ここまで現状についてお話し申し上げましたが、次は民営化前の香川県の状態、地域の状態がどのようなものであったのかについて、航空路線の推移なども含めてお話ししたいと思います。
 これはきちんと取材したわけではないのですが、いろいろな人からいろいろな話を聞いたものをまとめました。

 香川県の観光業界に「桃栗3年、橋1年」という言葉があります。
 次のページに載せた資料は、県のホームページに載っているものですが、香川県の観光客の入込数推移です。

 左から2番目が突出して高くなっているのが分かります。これは昭和63年(1988年)で、瀬戸大橋ができた年です。
 瀬戸大橋ができて入込数が1,000万人を超えました。グラフのずっと右の方、最近になっても、2018年に約960万人で、これを超えるのは今年も無理だと思います。もう少しで1,000万人に届くところまできてはいます。
 橋ができたときにはポンと1,000万人になりましたが、翌年はガクッと減ったので、それを指して「桃栗3年、橋1年」と観光協会の会長さんたちが自虐的に言っているわけです。「橋1年」ではあったのですが、その前の年と比べると分かるように、やはり橋の効果は絶大でした。県のホームページに敢えて昭和62年から載せているのは、「1,000万人にいく前は500万人にも届いていなかった。1年でブームは終わったが、前に戻ったのではなく、そこそこ大勢来てくれるようになったよ」ということを示すためのようです。
 瀬戸大橋ができたり、入込数が増えたり、というのはあるのですが、バブル崩壊で不景気が続き、そういう中で多くの国内線路線を持つ高松空港は、明石海峡大橋ができて伊丹線がなくなるなど、次々と国内線の撤退が相次ぎました。観光産業衰退の危機とまではいかずとも、このままいくと航空路線が減少するので何とかしなければなりませんでした。
 2010年に浜田さんが香川県知事に就任され、就任と同時に(その前からあったのかもしれませんが)浜田知事のリーダーシップで、外国人観光客直行便を高松空港に誘致して外国人を呼び込み、観光振興していこうという取り組みがいち早くなされました。非常に先見の明があったのではないかと思っています。
 小泉政権の頃から観光振興について話し合う中で出ていたようだとはお聞きしたのですが、第二次安倍政権の時代、ハウスネットで社長を務めているときに、業界の勉強会でデービッド・アトキンソンさんの講演を聞く機会がありました。不動産業界に全く関係ないのですが、著書の『新・観光立国論』が出版された年で、たまたまその機会を得たのです。
 今から10年ほど前でしたか、当時不動産業で、全く観光に携わっていなかったのですが、アトキンソンさんの言うことに共感し、「我が国は今後こういうことをやっていく必要がある」と感じた記憶があります。
 確か2015年か16年のことだったと思いますので、そのアトキンソンさんのアドバイスもありながら、我が国全体が観光立国へと動きだしました。多分第二次安倍政権(2012~2014)の、2013年辺りからそのような動きが始まったのではないかと思っています。従って、香川県のこの動きは全国に先駆けていたのではないかと感じています。
高松空港の国内線路線と提供座席数の推移(~2017)
 上の緑の線が今飛んでいる路線を示しています。羽田線、平成5年から那覇線、平成25年から成田線が飛んでおります。
 グレーの線が廃止になった路線です。伊丹線が平成10年になくなっていますが、平成10年(1998年)は確か、明石海峡大橋ができた年です。高松と大阪を結ぶバス路線はかなりあり、今でも高速バスで1日約50往復出ています。大阪へ行くのにも、バスと電車があると格段に便利になってしまったため、明石海峡大橋開通と同時に伊丹線はなくなりました。

 九州の路線、札幌・仙台の路線、関西空港にも飛んでおり、多数の路線があったのですが、最後に鹿児島が廃止となって、ほとんどのローカル・トゥ・ローカル路線が終わってしまいました。浜田知事が誕生したのは、ちょうど鹿児島線が終了した平成22年(2010年)で、国内線のローカル・トゥ・ローカルがなくなった時期と合致しています。
香川県のインバウンド誘致の成功体験
 2010年以降に、積極的に国際線の誘致を行うことになります。ソウル線は1992年からずっと就航していました。その頃は、高松の人がソウルへ行く需要を受け止めるための就航でした。アシアナ航空さんもよく我慢して飛ばしてくれたと思います。多分、途中で日本人旅行者が少し減ってきたのだと思うのですが、それでも飛ばしてくれていたところに、今度は少しずつ韓国から来る需要が増えてきました。途中、アシアナ航空からエアソウルに変わりましたが、ソウル線は当初からずっとありました。

 そして、2011年に春秋航空による上海線が始まり、2013年にチャイナエアラインによる台北線、2016年に香港エクスプレス航空の香港線の誘致に成功します。これら直行便の就航により、香川県内に宿泊する外国人が増加し、大きな経済効果を生むようになりました。
 それに加えて、「四国の玄関口」の座を取り戻しつつあります。皆様もよくご承知かもしれませんが、瀬戸大橋ができる前の高松は、宇高連絡船が着くので、ずっと「四国の玄関口」でした。ところが、橋ができてから、「四国の玄関口といえば岡山」と言われるようにてなってしまったのです。
 国内ではそうだとしても、国際航空路線が就航することによって、直接的な経済効果に加えて「四国の玄関口」であるというプライドや誇りをやはりみんなお持ちなのだなと感じます。空港の社長を務めていると、県民が空港振興に期待する気持ちが、ひしひしと伝わってきます。
 具体的には、高松空港が、あるいは私自身が地元のテレビに出演したり、ニュースに出たりする回数が非常に多いのです。初めて行った飲食店でも「テレビに出ていましたよね」なんて言われて、あまり悪いことはできないなと思います。ローカル局なのでそんなに大きなニュースもないからかもしれませんが、空港のちょっとしたイベントなどが取り上げられます。
 私が会長を務めてさせていただいている高松空港エアライン誘致等協議会は、地元の自治体、経済団体、観光団体などの皆様と路線誘致の方向性を協議する会なのですが、同協議会の会合にも必ずテレビ局や新聞社が取材に来て、「今日、空港に関するこのような会合が開かれました」として出るのです。
 テレビや新聞などのメディアが取材に来るということは、やはりその後ろにいる県民から「知りたい」ニーズがあるのだろうと思いました。私は三菱地所の所属なので、他の空港も三菱地所としていくつか管理をさせていただいております。あまり他の空港といろいろな情報交換をしないようにはしているのですが、聞くところによると高松空港あるいは私自身のメディアへの露出度はやはり他空港と比べて、圧倒的に多いのではないかということでした。
 今はもう交代されましたが、北海道エアポートの蒲生前社長と何度か食事をしたりお酒を飲んだりしながら話したことがありますが、もしかして蒲生さんより私のほうがよくテレビに出ているのかな? なんて思いました。実際にどうかは分かりませんが。もちろん全国区ではないですが、高松ローカルでは非常に注目度が高い位置いのは、経済効果だけではなく、プライドの問題もあるのではないか、と勝手に思っているところです。
高松空港国際線路線と提供座席数の推移(~2017)
 国際線は先ほど申し上げた通り、四つのエリアからの路線が民営化の前にすでにでき上がっていました。

香川県の外国人延べ宿泊者数の推移
 こちらは外国人延べ宿泊者数の推移を示したもので、2011年から観光庁の数字を拾ってみました。
 今から考えると信じられないのですが、わずか15年ほど前で3~4万人しか宿泊者数がありません。これが2019年では約77万人に急増しています。

 コロナで宿泊者がほとんどいなくなった後に、昨年2024年には約90万人です。国際線の旅客数が過去最高になっているので、宿泊者数もそれに伴って過去最高になったということかと思います。
 この2011年頃から2019年にかけて宿泊者数が急上昇していた期間、全国の県別の伸び率では神奈川県が2回、最高の伸び率を記録していたと思います。
香川県の外国人延べ宿泊者数の全国ランク(2010年&2024年)
 2010年の都道府県別の外国人延べ宿泊者数は、香川県が40位です。47分の40で、四国4県はみんなワースト10に入っています。この頃は愛媛の方が少し多いのですが、多いと言っても39位です。

 これが昨年の2024年になると、香川県は19位、愛媛県も松山空港の直行便が増えていることで27位まで上がっています。どんなランキングでも、40位ぐらいにいたものが10年15年で真ん中ぐらいまで上がってくることはあまりないのではないかと思います。そういう意味ではすごい伸び方をしたと思います。

 ただ、徳島県と高知県はもう少し上がってきて欲しいという思いがあります。香川県は非常に上位というわけではありませんが、一番面積の小さい県ながら19位まで来ました。私はコロナ前からこのランキングを見ていたのですが、コロナ前は21位、22位辺りでしたから、そのときから比べてまた少し順位を上げていることになります。
高松空港国際定期路線(週31往復)の香川県内の経済波及効果
 経済波及効果については、百十四銀行のシンクタンクである百十四経済研究所さんに依頼して計算いただいています。私には分からないほど大変複雑な計算なのですが、結果だけ示させていただきます。
 高松空港の直行便が1週間に31便飛ぶときの経済波及効果は約218億円という計算結果が出ています。民営化の前、2017年の時点で同じ計算を同研究所が行っており、そのときの結果を青字で書いてあるのですが、約80億円ぐらいでした。物価上昇などもあると思いますが、2017年比で2.7倍に増えています。

 我々はこういった調査を依頼し、その結果を空港会社として世間に公表しています。要は先ほど申し上げた、地域住民の皆様のプライドをくすぐりたいという思いもあってのことです。「空港を応援しようじゃないか」と皆様が思ってくれるのは好ましいことだと考え、このように定期的に調査を行って発信していこうと、昨年から取り組んだ結果です。
コロナ禍後の国際線再開への動き
 コロナで国際線が全部止まりました。実はコロナ禍中もずっと開いていた空港もあるのですが、全運休になっていた地方空港の中では、高松空港が最も早く再開しました。
 2022年11月のソウル線再開が一番早い再開でした。2022年6月20日に、当時の岸田総理が共同通信のインタビューであったかと記憶していますが、仙台、広島、高松という具体名を挙げながら、「地方空港の国際線も順次再開していく」と表明してくださったことがあり、ここから動き始めました。

 ここに至る前、総理のインタビューが出る前の2021年~22年にかけて、断続的にではありますが、いつ再開になってもいいように、PCR検査場の整備を検討していました。今から思うと嘘みたいな話です。控えのための待機室をどうするか、有症者が出たときにどのようなルートで運ぶかなど、「あんなこともやっていたなあ」と、本当に遠い昔のことのように思います。
 高松空港は広島検疫所の管轄なので、広島まで行って「空港を再開するときはどのようにすればよいか」といったような打ち合わせをお願いしていました。結構困惑されてしまい、「再開するかどうかも決まっていないのにそんなことを言われても分からない」というごもっともなことを言われました。
 また、「それに今スタッフはみんな成田や関西空港などの大空港に行ってしまっていて、広島検疫所管内には人がいないので無理だ」というようなことは随分と言われました。しかし、それでもしつこく通いつめました。「無理だと思う」とは言われながらも、行ってみれば一応は、「ここはこんな方法がいいのではないか」などのヒアリングができます。
 当時、成田空港や関西空港で実施していたようなことの縮小版を高松空港でもつくらなければという思いで、成田はどのようにしているのですか、といったヒアリングをしながら、意見交換や協議をさせてもらっていたのが2021年から22年の間のことで、断続的に行っていました。今から思うと、やはりこの活動をしていてよかったなと思います。
 そして、2022年6月20日に先述の岸田総理大臣が国際線の再開について表明くださったわけです。私はすぐ航空局ネットワーク企画課を訪問して、首相の発言の真意を聞きました。「どういうことなのですか。いつ頃から再開をさせてもらえるのですか」と。今日は大阪航空局長をはじめ、いろいろな航空局の方々もいらっしゃるので言いにくいのですが、やはり再開するときにグランドハンドリングの問題が出てくる懸念がありました。
 このため、その訪問時に、「グランドハンドリングの再開・立ち上げのための補助金的なものも少しお考えいただけませんでしょうか」というようなことを申し上げると、課長はずっと黙っておられました。後で課長ではない別の方にものすごく叱られまして、「君らは何を言っているんだ。総理大臣が高松の名前を挙げてくれているのに、弱気なことを言って。他の空港はそんな話を一切しない。グラハンがそんな弱気なことを言っているのは高松だけだ」と怒られました。
 しかし、このとき怒られたのがよかったなと思います。私は素直に「そうなんだ!他のみんなはグラハンに困っていないのか!」と思ってすぐ高松に戻りました。翌朝、2社あるグランドハンドリング会社の社長を訪問し、「航空局に行って首相の発言の真意を聞いて、こういう話をしたら、大変叱られましたので、あなた方、頼みますよ。せっかく総理が国際線を再開すると言ってくださっているのを、グラハンがネックになって再開できないのはあり得ないと航空局が言っているので、しっかり頼みます」と私はお願いしました。
 こうしてグランドハンドリング会社さんも危機感をもってくださり、離職して欠員になっている人の補充に走ってくださいました。地方空港のグランドハンドリングは大抵の場合、日本航空や全日空が元請けとなって、自社が使っている地元の企業におろすという形をとります。コロナ前は半々ぐらいで受託していたのですが、さまざまな事情があってコロナ中に切り替えがあり、コロナ後は国内線で日本航空系の方が多くなったのです。特に日本航空系の四国航空さんの方たちは本当に一気に採用を進めてくれました。
 それからCIQ、特に検疫関係との協議はずっと続けていたのですが、この岸田首相のお話があってから急に真剣かつ前向きに、「こういう動線をつくって、こんなふうにしていこう」といった協議が進みました。そのときも刻々と状況が変わってはいたのですが、検疫関係の改修工事なども進めていきました。
 検疫の方では、私が副知事と一緒に広島を訪問し、広島検疫所長さんに「よろしくお願いします」とお願いをしました。そのようなことも含めて、検疫関係の話が進んでいったのが、2022年の7月頃です。
 2022年7月の25か26日だったと思うのですが、8月の終わりに任期満了による退任が決まっていた浜田知事と、最後のお仕事ということで一緒にソウルに飛んで、「ソウル便再開の準備を整えますからよろしくお願いします」と要請しました。そのときに「秋から再開」というお話をいただいたと思います。
 本当に懐かしい気持ちです。浜田知事と一緒に行く前に、ソウルに入国するためのPCR検査を受けたのですが、国際的に通用する検査だというので2万円ぐらいかけて高松市内で検査をしてもらいました。その結果を持ってインチョンに行き、今度はインチョン空港では日本に入国するためのPCR検査を空港内の検査場で受けました。
 3日間に2回のPCR検査を受けたのは懐かしい思い出になりましたが、このように我々の方もグランドハンドリングと検疫所との協働を行いましたし、県の方も知事がリーダーシップを発揮してトップセールスをしてくださって、ようやく再開にこぎつけたのです。
コロナ後の国際線の再開と新規就航
 図の2本ある黄色線の下側は、昨年の夏ダイヤから就航を開始したスターラックス航空という台湾の新興航空会社です。おそらく日本の地方空港、大空港も含め、台中線はあまりなかったのです。セントレア=台中はあったかもしれません。

 しかし、台中=高松という珍しい路線が昨年からできて、週3便だったのが今は週5便に増便しています。そして、昨年の7月からソウル線に新たにジンエアーが加わって、今は週当たり37便という状況になっているところです。

高松空港のこれから 

これからの取り組み
 「これから」についてですが、今私自身が思っていることをお示しします。
 国際線が一気に増えました。朝から順番に飛んできてくれればいくらでも入るのですが、やはり使いたい時間、到着したい時間というのは重なるものです。大体がそれぞれの国のインバウンドダイヤですから、朝に現地を出てくるわけです。ソウルは早いので10時半ぐらいに着くのですが、台湾や中国は昼頃に着くため、10時半から12時過ぎぐらいのところが非常に混み合ってしまいます。
 従って、国際線の受け入れ容量の拡大が喫緊の課題であり、今工事を行っているところです。

 そして、地方空港も仙台や熊本のような所だとどうなのか分からないのですが、少なくとも高松空港の場合は、先ほどお話したように財務的に非常に脆弱なので、地域の皆様と一緒にいろいろなことに取り組んでいくことが大事です。それでベクトルを合わせるという意味で「同じ夢を見る」と書いたのですが、歩調を合わせていくことが大事なのだろうと感じます。
 また、路線をどんどん誘致することが目標になってくるのですが、どこまでいっても、新路線の就航あるいは増便というのは、やはり航空会社から見ると需要量が問題なので、そこをどれだけ増やせるかが重要です。
 当然、私一人では何もできないので、社員全員がやる気になってくれないといけません。そこで社員のモチベーションを上げていくための取り組みも私自身の大きなミッションだと思っております。
 これらのことを踏まえて、営業利益を黒字化していきます。少しGoing Concern(継続企業の前提)が危うい状況になっていますので、継続できる会社にしていきたいと思っています。
空港の受け入れ能力の増強
 増改修は国際線を優先しております。高松空港の駐機場には元々スポットが六つあり、六つのうち四つにボーディングブリッジが付いていたのですが、一番西側の、赤い線で囲ってある部分を今工事しており、国際線用のボーディングブリッジを1本追加しています。左から3番目のものは内際共用で使用しているので、引き続き内際共用としています。
 これまで国際線では1.5本しかボーディングブリッジがなかったのですが、これからは2.5本使えるようになります。すでに昨日(9月2日)、高松港にボーディングブリッジが入港して、夕べトレーラーで運んできており、固定橋もでき上がっているので、おそらくは今日(9月3日)から取り付けをしていると思います。10月から供用開始です。

 第2段階として、建屋の方も増築をする予定です。青く塗ったところが今の国際線で使っているエリアで、赤い部分を増築します。管制塔があったりなどで、なかなか横に広げていくことが難しかったもので、一見すると青い部分よりも小さく見えるのですが、全体が2階建てのところを、この赤い部分を3階建てにすることで、横に広げられない部分を上に伸ばして必要面積を確保しようと考えています。

 一番広くなるのはCIQのゾーンです。出国の所も混むのですが、入国審査場が特に混むためです。手荷物受取場のベルトコンベアは一つしかなかったので二つにします。このような内容を中心に整備をしています。
 それから、私どもは免税売店を直営しているので、免税売店の売り上げ伸ばしていくためにその部分の面積拡大も考えています。
地域と同じ夢を見る
 先ほど申し上げました、地域と同じ夢を見るという話。私は、空港振興によって地域経済が良くなっていくと考えております。地域の皆様にもそのように思っていただけるように、世論を誘導していくと言うと少しおこがましいのですが、いろいろな材料を出して気運を醸成する、あるいは既に醸成されている気運をこれからも維持していく、そういったことをやっていかなければなりません。なかなか難しい話ではありますが。

 路線・旅客数の増加に向けては、これもやはり我々だけで「こうしたい、ああしたい」と言っていても、足並みが揃わないとできません。国際線をもっと増やすのか、国内線を増やすのか、あるいは既存路線の増便を図っていくのか、新しい国や都市に新規就航するのか、というようなことはよくよく議論していかねばならないでしょう。
 スライドの下に付記したのですが、先ほど少し触れた高松空港エアライン誘致等協議会という組織があります。民営化を始めた初日に香川県との間で、空港会社と県のパートナーシップ協定を締結したのですが、その中で、地域の意見を聞くために同協議会を設置する、ということも定められているので、それに沿って毎年2回開催しています。このようにして地域とのベクトルを合わせていくわけです。
路線誘致は結局のところ需要量
 需要を増やしていくためには、当たり前のことですが地域の魅力と利便を向上させることが重要です。
 国際線のインバウンド、あるいは国内線も同じなのですが、四国・瀬戸内ってやっぱりまだまだ知られていないのです。海外の方にもそうですし、国内の日本人も四国や瀬戸内は知っているが、九州に行ったことがあっても四国には行ったことがない人は結構多いです。関西からは近いので、うどんを食べに行く、などで割と四国が身近にあるのかもしれませんが、関東の人は本当に行ったことがない人が多いと感じております。

 国際線のインバウンドについては、FIT(海外個人旅行)がものすごい勢いで増えています。コロナ前からそうだったとは思いますが、コロナが明けてみたら本当に、レンタカーを借りる人も非常に増えていますし、鉄道に乗る人も多くなっています。
 要は、団体の観光バスの量が減ってきているので、この辺りのFITへの対応がこれからカギを握るのではないかと思っています。日本人があまり魅力を感じていない場所が大変人気になるなど、魅力を感じるポイントの違いがあるので、そういったことも考えていかなければなりません。
 二次交通もそうです。今我々は、旅の前に高松空港からタクシーを予約できるように多言語化したサイトをつくっています。そういった外国人の個人旅行者に使いやすい二次交通整備にも少しずつ取り組んでいこうと思っています。ライドシェアももっと普及していくといいですね。
 よく海外の外航の会社から言われていて、実際にそうだなと思うのが、片側だけでは路線が成り立たないということです。特にフルサービスのチャイナエアラインやあるいは台湾のスターラックス航空からは、「日本人は、半分とまでは言わないけれども、4:6ぐらいにはしてくれないと路線の維持が難しくなってくる」とよく言われます。
 日本全体の昨年時点のパスポート保有率は17%だったと思いますが、香川県の保有率は11%なのです。やはりいろいろな気運を醸成していくというのは、こういうものも入ってくるのではないでしょうか。
 アウトバウンドについては、香川県にはそんなに大きな会社やメーカーがあるわけではないのですが、それでもいくつかはあります。「台北乗り換えでこういう場所に行けます」「香港乗り換えでこんな所に行けます」など、高松空港のホームページにも載せていますが、乗り継ぎ便や乗り継ぎ利用の利便についての法人営業も進めているところです。
 こちらは地方ブロック別の外国人延べ宿泊者数を示したものです。先ほど四国の知名度が全然ないと申し上げましたが、このデータを見ても、2024年で全国の中でわずか1%しかないのが分かります。四国に宿泊する外国人が1%しかいないという現状をもう少し何とかしていかねばなりません。

 コロナがあってから振り出しに戻ったような状況になっています。右側の列を青と肌色に分けており、青は2019年比で構成比が減ったブロック、肌色は増えたブロックを表しますが、関東(東京)や近畿(大阪、京都)が増えています。九州も増えており、四国もわずか0.1%と大したことはないですが一応増えているので、「四国にはポテンシャルがある」とみて、この調子で認知度を上げていきたいと思っております。
 四国・瀬戸内の魅力発信の取り組みを行う上で、県の観光協会など県ベースでやっていると、県外との取り組みができません。これは私どもならではの取り組みなのですが、今、広島空港さんと瀬戸内海をぐるっと周遊するコースをつくって、海外で売り込もうと動いています。台湾からチャイナエアラインが広島と高松に飛んでおり、香港が香港エクスプレスで同様に広島と高松両方に飛んでいるので、航空会社が同じでやりやすいわけです。コンセッション空港同士でもあるので、なかなか県レベルでは動きにくい部分でやろうじゃないかということで取り組み始めています。

 徳島の山奥に位置する祖谷(いや)はなぜか香港の方々にものすごく人気があります。欧米の人も多いですが特に香港の人が非常に多い場所です。実は祖谷は徳島空港からよりも高松空港から行くほうがかなり近いのですが、香川県の観光協会が県の予算を使って徳島県の観光地を売り込むことは絶対にできませんから、ここは我々高松空港として祖谷をもっと売り込んでいこうという活動を進めているところです。
 「着地型旅行商品の造成」について。日本のホテルでは、海外でよく売られているようなワンデートリップがあまりないように思います。大阪だとあるのかもしれませんが、高松には全然ないので、これをつくっていくべきだと今いろいろな関係者と話しているところです。
・社員のモチベーション
 最後に社員のモチベーションについてのお話です。社員がみんないきいきとしてやってくれないと始まらない、という思いが私の中にずっとあります。
 真ん中に「ビジョン」として、「アジア・世界とつながる四国・瀬戸内No.1の国際空港になる」とありますが、これはコンセッションの提案書に書いてある、将来の空港が目指す姿です。ビジョンはあっても、ミッション、いわゆる基本使命みたいなものがありませんでした。航空営業に携わっている人々からすると、「四国・瀬戸内No.1の国際空港」というとどうしても旅客数に目がいってしまいがちですが、滑走路を守っている人たちからすると、そんなことは関係ない、となってしまいます。

 そんなわけで、「自分たちなりの『四国・瀬戸内No.1』とは何か」について、コロナ禍中の時間のある時期に、社員とワークワークショップを持って随分議論しました。自分たちの会社の存在意義や存在目的を考えようという取り組みです。こうして「ミッション」として「空港から人と街を元気にする」という言葉を考え、全社員で共有しています。こういったことも含めて全員のモチベーションを上げていこうということです。
 「安全宣言」はどこの空港にもあり、航空局長などもこうした安全宣言を出されていると思うのですが、高松空港では「安全・安心は、空港が提供する最高の旅客サービスである」としています。
 この「ミッション」「ビジョン」「安全宣言」の三つは、最近入社した人を除き、以前からいる人はみんなきちんと暗記して、これをイメージしながら仕事に取り組んでいます。ここも私自身、大事にしていかねばならないことだと思っています。
・私の目標
 最後に私の目標です。とにかく高松空港株式会社が自立してしっかり回っていくことができる会社になることです。大きな利益が上がらずともいいので、よって株主への配当などよりも、会社が継続していける、自立してしっかり回っていくことを目標にしています。そういうふうに努めていけばきっと良いこともあるのではないかと思います。
 今、増改修で結構投資しています。残念なことに、ずいぶん粘ったのですが自力では金融機関からお金を借りることができませんでした。結局民間の株主に債務保証をつけてもらって借りざるを得ませんでした。利息ももちろんあるのですが、株主にも保証料を払わなければならず、少し金利がかさむ状況になっています。しかしそれは仕方のないこととして、借り入れの返済をしながらもしっかり自立していける会社にしていきたいと思っております。
 以上でございます。ご清聴ありがとうございました
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