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今月のセミナー

-関西空港調査会主催 定例会等における講演抄録-

民間航空におけるパイロット不足について
(現状と課題等をなるべく数字を排して解説)

山本 爆 氏

株式会社ANA 総合研究所 主席研究員

●と き 2026年7月23日(木)

●ところ 大阪キャッスルホテル7階 菊・桜の間(オンライン併用)

はじめに

 本日はこのような機会をいただきまして、感謝申し上げます。
 先ほど田中からも話がありましたが、我々ANA総合研究所は、航空系のシンクタンクとして仕事をさせていただいておりますが、今日は、いわゆる人手不足、労働力不足という点の切り口からのお話をさせていただきます。
 先にお話をさせていただいた田中の専門は空港部門で、とりわけ旅客部門における運営のプロ中のプロでございます。翻って、私の専門は運航乗務員の養成です。入社以来約40年のキャリアがありますが、35、6年ぐらいはこのような仕事をしております。
 パイロットの養成の諸企画、訓練や審査の基準をつくったり運用したりするといった業務に携わってきています。今日はそのような立場から、お話をさせていただこうかと思っています。 パイロット養成の話として、今日は労働力不足という切り口からお話させていただきますが、養成全般の話をし始めると、例えば資格の法的背景の話など、非常に複雑かつ深淵な話になってしまい、とても時間が足りませんので、今日はそういった複雑な話題は割愛させていただき、少し大雑把になります。その意味でプロフェッショナルの方には入門的過ぎるお話になるかもしれませんが、ぜひお付き合いいただければと思います。

自己紹介

 最初に軽く自己紹介です。1988年、昭和最後の63年度に入社いたしました。田中とは同期で、今日はたまたま同期2人でこちらにうかがったことになります。入社の時こそ、空港旅客部門に配属になりまして、羽田で旅客ハンドリングという普通の仕事に従事しましたが、そこは1年間だけで、2年目からは運航部門――運航乗務員と共に歩む事務方の道へ異動しまして、それ以降、ほとんどのキャリアをそこで過ごしております。

 我々の業界ではこういったキャリアは「マルコウ」(運航の航の字にマル)と呼ばれており、「お前マルコウだよね」みたいな感じで言われます。そんなふうにしてキャリアを過ごしてまいりました。
 1ページには関連する写真を少し入れさせていただいております。写真にはシミュレーターがあったり、我々の一大訓練施設である羽田のANA Blue Baseがあったりします。またキャリアの中では他社に出向させていただくことも多く、出向先であった日本貨物航空のロゴやpanda・Flight・Academyのロゴも入れてみました。一番下の写真にある「F」の字は、昔ANAが持っていたJリーグの横浜フリューゲルスのエンブレムです。そんな仕事をした時期も少しですがあります。このような感じでキャリアを過ごし、現在はANA総合研究所に在籍しております。

今日のお話――パイロット不足について

 2ページ目に、今日の話のあらましを書いておきました。今いろいろな業界で人手不足が言われており、航空業界においても例外ではありません。本日は特にその中でも民間エアライン、当然我々ANAグループの中にもエアラインがありますが、中でも重要生産材であるパイロットの人手不足に焦点を当てたいと思います。

 そもそもパイロット不足とはどのような状況なのか、なぜ不足が起こるのか、パイロットになるためのリソース別に、それぞれの不足に対してどのような対応策が今考えられているのか、そしてその効果は現在どの程度あるのか、そういったお話をご紹介させていただきます。その他、私見として少しスタディ的なお話もご紹介させていただこうかと思っています。最後に重要な話として、あえてエアライン外の話にはなりますが、我が国の中における航空機の運航の中で、もう少し広く視野を持った時のパイロット不足の、非常に大きな問題についても、少し触れさせていただきたく思っております。
 本日ご参加の方々には業界関係の方も多くいらっしゃいますので、この「パイロット不足」という言葉をお聞きになったことがあるかと思います。とはいえ、毎日国内線の運航状況などを見ていると、飛行機はちゃんと飛んでいる。いろいろな状況で欠航することもありますが、一定度計画通りには飛んでいます。
 この状況でパイロット不足とはどういうことなのかと思われるかもしれませんが、日々の計画はきちんとあってスケジュールがなされており、もちろんそれを販売しているわけで、そのような社会契約の中で運航が成り立っていることになっています。
 ではその計画があるのに、なぜ不足が生じているのか? これは逆に余剰も同じ理屈です。人員は余る時ももちろんありますので。ただ今日は不足という切り口でもって「なぜ、こういう不足が起こるのか」についてお話しいたします。
 最初にお断りしておきますが、副題にも入れてあるように、今日は細かい数字を排した形でお話ししたいと思います。これは講義や講演において私自身のチャレンジでもあるのですが、お付き合いいただければと存じます。
 乗員養成の話をするとき、とりわけ要員数に関する話をする場合には、当然のことながら数字やデータが非常に大事になります。そうすると多くの場合、グラフなり図表なりで状況説明をすることが非常に多く、私もいろいろなところでお話をするときに、そういった資料をもちろん使います。
 ただ、最近個人的に気付いたことがあります。私は大学などでお話しさせていただくことが割とあるのですが、学生の方々、つまり業界の完全に外側にいるような方々は、基礎知識はないけれども、就職を目の前にして職業選択について考え始め、社会との接点を持ち始めているような人たちです。そういう意識を持っている方々とお話をするときに思うのは、社会課題に接するときに、いきなり細かいことを知っていくよりは、やはり最初に大きなくくりでどんなことが起きて、何が発生しているのかを知りたがるということです。それから少し興味を持って知っていく中で細かいデータなどに触れていき、より理解を深めるわけです。
 私は講義のときに、学生にリアクションペーパーのような感想メモを書いてもらうのですが、そこにもそういった希望がよく書かれてあります。あ、なるほどな、と思い、その後、いろいろなところで話をするときのやり方をいくつか用意しておくようにスタディーすることにしました。細かい点へのフォーカスよりもまずは大きな視点でつかむ、あえて数字の話を極力避けて粗筋をつかんでいただくような場にできれば思っております。

パイロット不足とはどのような状況か

  パイロット不足とはどのような状況なのかについて、まず今日的な課題の切り取り方として整理しておきます。

 この内容に入る前に、一つエピソードをご紹介します。私がこの世界でまだ駆け出しだった頃、ANA運航本部で乗員計画部門の課長をしていた10歳ぐらい年上の方がいました。その課長さんがある時、「山本、乗員計画なんてものは当たらないんだよ。当たるわけないんだ、こんなもの」と言ったのです。乗員計画課長というのは、航空会社運航部門の非常に枢要な職責で、パイロットの配置を決める責任者である大変な要職です。そんな人が何てことを言うんだ、大丈夫かこの会社は、と私は思いました。しかしその人は言葉を続けました。「計画は計画として、ある段階できちんと前提として決める。会社の仕事の流れとして当然そういうタイミングがあるので、決めなければならない、そうしないと話が進まない。しかし結局、後から後からいろいろな変更要素が津波のようにやってくる。要するに計画に対して、事後の変数があまりにも多い。これはどの業界でも同じだと思うが、現実とはそういうものだ。でも計画外だからといって、変更要請があったときに、お前は断れるのかと言われたら、それはない。だからなるべく合わせていくように、今ある既存の計画をいろいろな努力で修正して追いかけていくんだ。頑張って、その変数要請を可能な限り受け入れて、新しい事業計画をうまくいくように後付けの努力をしていく。これが実は、乗員計画の本質なんだよ。計画の本質は数字ではない。概念だ。俺たち計画屋はそういう仕事をする。お前のような基準屋の仕事は、今当然と思われているルールに効率化の余地はもうないのか、安全を担保しつつ更なる規制合理化努力はできないか、そういう観点で開発を担っていくことだ。」というようなことをその人はおっしゃいました。
 これはなかなか至言だなと思いました。単なる無責任な放言ではなかったことが後で分かりまして、今でも私の心に強く残っています。つまり乗員計画は、当たるようにつくるのでなく、「後から全力で当てにいく」というのが本質だということなのです。そんなこともあって今回、その人へのリスペクトではないですが、数字を排した解説を試みようかと思った次第です。
 さて、2026年度現在の民間エアラインの現状ですが、何が起きているのかというと、民間航空の全パイロット(7,200~7,300人程度)の平均年齢がすでに50歳を超えて何年も経っており、平均年齢はすでに52歳からほぼ53歳になっています。機長はキャリア上、副操縦士の経験を積んでからその地位に就くので、当然機長の方が年かさなのですが、年齢構成ないしは採用された時期から換算すると、2030年度に大量退職が出る「2030年問題」が懸念されています。もう今はすでに2026年になってしまいましたので、2030年問題はすぐそこにきています。2030年問題は、この業界ではかなり前から言われていました。。一方で20歳代の半ばぐらいから40歳代頭ぐらいの世代は、長期に安定的な乗員計画を考える際に、とても充足しているとは言えないのが現状です。
 民間エアラインを取り巻く環境自体はどうなっているのでしょうか。コロナ禍による大きな落ち込みは、業界でも世界的にありましたし、その時には飛行機自体が飛ばなかったので、かなりの人員の余剰を起こしました。ただ、これは非常に特異な状況なので、その後、V字とまではいかずとも、お陰様で航空需要は順調に回復しました。いろいろな統計がありますが、2025年度あたりには世界平均的に、ほぼコロナ前の水準には戻ったのではないかと言われています。事業回復はこれからも続きますし、トータルとしては増便傾向になります。ICAOやIATAでも推論していますが、航空需要は長期的には伸びていると言われており、それを支える稼働力が当然必要になってきます。
 日本がもちろんそうですが、先進国に共通しているのは少子化で、少子化が起きて人口そのものが減り、生産人口も減っている状況です。従ってパイロット需要は高まっているのですが、一方の供給事情としてはどの国でも非常に苦しい状況です。生産力は、何でもそうですが、欲しい時は皆が欲しいし、不要な時は皆不要になるものです。
 今、航空需要を支えられるような増員をしたいと思っても、どの国もどこのエアラインも欲しがっている状況になっています。後述しますが、例えば外国人で補完していこうと考えても、日本の今の国際的採用競争力は為替の状況などからも低位な傾向にあります。従って外国人での要員補填は容易ではありません。このような状況が、今のエアラインを取り巻く環境です。

不足はなぜ生じるか

当然、計画はある~計画の3つの柱

 余剰も同様ですが、ここでは不足について話していきます。そもそもなぜ不足が構造的に生じるのかという話をしておきます。至極当然のことを書いてあるだけなので、さらっと流していただければと思います。

 先ほどの過去の某乗員計画課長の話にもある通り、計画は当然あるわけです。短期計画もあれば、中期や長期計画もありますが、総合的にいわゆる「事業計画」と呼ばれているものがあります。ここで収入や費用、つまり収益の計画があり、通常の企業体はこうしてつくって運営していくわけですが、航空会社の場合は、大雑把に言うと大きな3本の柱があります。事業計画を支える柱として、まず路線便数計画、機材計画、それを支える人員計画があります。これを模式図的にご理解いただきたいと思います。
 路線便数計画は、国内線・国際線のどの路線に、どの国に、どのぐらいの数の便を張っていくかという計画です。機材計画はどの路線にどのサイズの飛行機を入れるかという計画。例えばその飛行機が持っているスペック、航続距離など、いろいろな条件があるので、そのようなことを考慮して機材を選び、入れる飛行機を決めていきます。あるいは今ある飛行機の中で老朽化しているものがあるので、来年には何機か退役させなければならず、その代わりの機材を何年前にはすでに何機か発注しておかなければならない、といった調達計画も含まれます。
 そしてそれを支える人員計画です。今日お話しするパイロットはもちろん、CA、整備、先ほどの田中の話もあったように、空港のスタッフなどをトータルとして揃えていかないと計画は成立しません。これを考えながら、中長期の計画もこなせるよういろいろな生産材の養成を予測して計画していくわけです。
 もう少し細かい話としては、毎月/毎週/毎日飛行機がスケジュール通り運航できるようにするための現場配置の人員の数、いわゆる短期の出面を決めていくような、最終的な細かいところまで含めて全部計画します。

変数があり、都度発生する

 しかしながら、先述のとおり変数があります。環境には必ず変化が生じ、しかも都度都度発生する。赤字で示したように、非常に大きな例として、最近のパンデミックがありますが、これは大事件です。しかも局所的ではない、例を見ないような世界的大惨事でしたが、こんなことが起ころうものなら、既存の計画は吹き飛んでしまいます。

 そこまでのレベルではないにせよ、路線便数計画であれ、機材計画であれ、人員計画であれ、一旦つくったものであっても、いろいろな環境要素が次々と押し寄せてきて、結構変わるものです。これは皆様も実業の中で実感され、ご理解いただけると思います。
 路線便数であれば、スロット調整や権益の変化、昨今では特に大きな需要の変化、社会情勢、世界情勢などにも左右されます。卑近な例で言うと、現在ロシアの上空を飛べませんし、中東情勢も少し怪しく、安全上の問題から通常のルートを変えなければならないという、そのようなことがいくらでも出てくるわけです。
 機材計画にしても、すでに発注してある機材でもメーカーによる製造遅延があったり、製造国における承認がなかなかおりなかったりして、1~2年遅れるといった話はわりとあります。今飛んでいる飛行機でも、何らかの大きな不具合が発見された場合、機材やエンジンに緊急に特殊な整備を要するような事情がたまに発生することがあります。そうすると、ラインから飛行機をグランドさせて整備に入らねばならず、それには何日かかります、といったことが起こります。その他の技術対応も頻々に起こりますし、あってはならないことですが航空事故で全損するなどが起こると、当然のことながら飛べなくなる飛行機が1機出てきてしまう。これは大きなインパクトです。こうして機材計画も大きく崩れ、相応して人員計画も当然崩れていくことになります。
 パイロットの配置計画でいうと、100%ではないにしても、唯一確度が高いのは年齢の問題です。2030年問題について述べましたが、人間は必ず1年に1歳年を取ります。2歳年を取る人もいなければ、0.5歳しか取らない人もいないので、今いる人たちが10年後に10年歳を取っている、これだけは確かです。従って、今いる人たちが何年後に何歳になっているかということだけは、高い確度で予測がつくのですが、その人たちですら途中で辞めることがあるので100%確かではありません。でも比較的確からしさは高い。しかし確からしさもせいぜい「高い」という程度。事実、それでも2030年問題は決定的な解決策なくその時を迎えようとしているわけですから。
 言うまでもなく他の要素はかなりの割合で変化が起きます。なおかつこれらの変更要請は経営的に優先度が高いので、生産部門の計画はそれに合わせる努力をしていかなければならないことになります。
 このようにして不足や余剰が生ずるということを、模式的にご理解をいただければと思います。もちろんもっと細かく複雑な話は多くありますが、模式図的にはこういうことだと、まずはご理解ください。

対応策の検討について

 次に不足に対する対策についてです。「足りない」わけなので、純粋に国語的解釈をすると、足りないのなら増やせばいい、というのが1つの視点です。

 もう1つは、達成すべき仕事量を変わらないと前提とした場合、単位あたりの仕事量を増やして対応する稼働必要数を減らせばいい、という視点。大雑把にこの2つの考え方があるでしょう。
 1つ目の「増やせばいい」はどうするか。既存のパイロットには、いろいろな出身のいろいろな人たちがいます。それぞれのところで、養成する人数を少しずつ増やしてもらえば、リソースの増員が可能です。あるいは、もともとそこにアプライしてこないような層に興味を持ってもらい、裾野を拡大する努力をしていきます。このようなことを積み重ねて、要員を増やしていきで不足を埋めていくという考え方です。王道的な対応です。ただし、やはり時間を要します。
 もう1つの「必要数を減らす」という、切り口が逆の考え方ですが、これはかなりスタディ的でチャレンジングな話なので、あまり現実的ではないのですが、ひとつは代替手段の開発です。新技術を導入することによって、2人でしかできなかった業務が1人でできるようになれば、必要数が減って将来の不足が緩和されるという考え方です。あくまでも理論の話です。他には、あまり大きな声では言えませんが、生産効率の向上が考えられます。荒っぽく言ってしまうと、「もっと働いてください」という話です。これはあくまでも理屈の話であり、必要数を減らす理論としてあるというだけの話で、労働強化をヨシとする話ではありません。そんな話になると、先ほどの田中の話と逆行してしまうので、あくまでも理屈の一つだと捉えていただければと思います。

要員を増やすための対策

 1つ目の視点、要員を増やすための対策について詳しく解説いたします。今から3ページにわたって出てくる話は全て、2023年度末に国交省が発表した「航空整備士・操縦士の人材確保・活用に関する検討会、最終取りまとめ」という公的な文書に載っている内容です。国交省のホームページに行くとどなたでも閲覧できます。内容、その時の議論状況、参考資料まで全てが見られるようになっているので、お時間のある方はご参照いただければと思います。そこに書いてある内容を参照させていただきました。
 我が国の民間航空のパイロットのリソースは、主にこの7ページと次の8ページにわたって示していますので、先にリソースをざっと紹介します。


 まずはご承知のように航空大学校(航大)という養成機関があります。これは宮崎に本校がある独立行政法人の学校のことです。また自社養成というのは今、一つの大きな太い線になっています。さらに全国にいくつか、操縦士を養成する学部・学科を持っている私立大学があります。続いて防衛省(自衛隊)、その他ということになっています。それから外国人というリソースもございます。
 それぞれのリソースについて、今不足となっている状態に対してどのような状況であり、どんな問題が起きて現状を招来しているのかについて、この最終取りまとめの中で分析されています。

航空大学校――問題と対策

 統計の取り方次第ではありますが、民間エアラインの採用に限定すると、航大(航空大学校)卒と自社養成で7~8割ぐらいの必要人数を賄っています。自社養成の割合はかなり増えてきましたが、航大も相変わらず太い線で要員を輩出していただいています。
 ところが航大においては、基本的に2年の課程ですが、ここ数年、2年で卒業できず、ともすれば3年半ぐらいかかってしまうという実態がすでに起きています。当然のことながら、在籍年数が伸びれば卒業が遅れます。そうすると、エアラインに対する供給時期がどんどん後倒しになるため、それも要員不足の原因の一つになります。
 また、いろいろな意味でのコスト増という問題があります。燃料費も上がっており、世の中何でも物価が上がっているので、航空機運航についてもコストが上がっていますが、コスト増の積み重ねによって受益者の負担が増えています。受益者とは誰かというと、卒業生を受け入れるエアラインは受益者ですし、学生自身もそうです。学生は学費を払いますが、元官製の学校なので比較的安価ではあります。ところがコスト増になると、学費にそれが反映されるので、やはりだんだんと高くなっているのです。この後に出てくる、私立大学の養成課程の学費と比べると安いですが、それでもだんだんと航大の学費は高くなってきています。
 よって、総合的な航大自身の魅力は低下している、と先述の委員会とりまとめ議論の中でも言及されています。少子化の影響は無論ありますが、このような背景もあり学生の応募はやはり少なくなっています。
 委員会とりまとめでは、教育品質向上の必要性にも言及されています。航大での教育をエアラインとのノウハウ共有促進でより品質向上させていくといったことが挙げられています。

自社養成――問題と対策

 一方、自社養成の問題については、「他業種との競合」とあります。先ほど大学生の話をしましたが、現在、大学生の就職活動の中で、「パイロット」という職業に対しての意識はほとんど他の業種に対するものと同じなのです。パイロット自社養成と、例えば金融や商社に応募して、すべてに受かって商社に行く、という選択が普通に存在する世界になっています。自社養成の制度は、日本航空と全日空では昔からあるのですが、昭和40年代に行われていた自社養成がオイルショックの時に中断して以降、日本航空で昭和62年度、全日空で昭和63年度に再開されるまで、仕組みとしては結構長く閉じられていました。昭和62年、63年のJAL、ANAでの再開当時の学生の熱量は非常に高く、「どうしても自分はパイロットになるんだ」「全日空が来年から再開するのなら留年してでも来年受ける」、そんな学生も珍しくありませんでした。
 ところがその後、割と早めの平成前期ぐらいの時期から、学生の考え方は変わり始めました。「どうしてもパイロットになりたい」ということでもなく、どこか大手企業に入ることができればそれでヨシ、として就職活動する学生が多数になります。それを別に否定するわけではないのですが、パイロットという職業に対する意識がさほど特別なものではなくなった、というのが平成以降の傾向だと当時の採用も担当していた私は実感したものです。これが「他業種との競合」の意味合いです。この傾向は今も継続しています。
 もう一つの問題として、エアラインのコスト負担があります。自社で養成するということは、自社で投資することになります。今日は数字を排してお話しするので具体的な金額は申し上げませんが、1人に対する投資額はかなりのものになります。これは当然、景気が悪い年にはできないわけです。従って、どうしても景気動向によって波があります。この年はどうしても5人しか自社養成を採れないが、景気の良い時は40人採れていた、そんな話になるということです。ANAにあっては、自社養成採用ゼロの年度も実際にありました。波があるということは、将来における必要要員の凸凹につながるので、要員不足を招来する1つの原因にもなります。

私立大学――問題と対策

 次に私立大学について解説いたします。今、全国的に見ると複数の私立大学で、特に工学部系の学部学科内に操縦士養成課程を設置いただいています。

 そのような課程を持った私立大学に入学し、基礎ライセンスで必要なものを在学中のセメスターで取得します。卒業後エアラインに入社、実用機の操縦訓練を受けて副操縦士を目指すという仕組みになっています。無論、就職活動として選考があるので全員の合格が保証されてはいません。
 ところが、やはり学校なので学部・学科の定員数から考えて人数的に限界もありますし、そういった学部を運営していくためのコストは相当高くなるので操縦教育を担当する教官の確保も含めると、一私立大学では非常に難しいところがあります。よって、そのような学部・学科運営は私立大学として経営の安定という視点から見た場合にはリスクは高いと評価されるようです。大学全体の経営上、本当に今後も運営を続けていけるのか? という議論にどうしてもなりがちです。実際に、某大学では操縦士養成課程の新規募集を停止しました。そのような学校も出てくることになってきます。
 このようにズバリお金の話が重要になってくるのですが、当然のことながらこのような特性を持った学科なので、学費も非常に高いという構造になっています。他の学部・学科の学費と比べると医学部を除けばやはり高額です。これは学生 (およびその保護者) への直接負担となるので無視はできません。奨学金制度は現在でもあります。ただ、これをもっと充実させていかないと、要員の増加は難しいだろうと、委員会提言の中でも言われています。さらに、学生個人だけではなく、そもそも大学自体に対する補助金も学科運営を継続していくために考えねばならない、とも言われています。
 また養成品質に関しては、航大のケースと同じように、より一層エアラインとのノウハウ共有を進めながら、大学在学中における基礎的な操縦教育の品質を上げる必要があるとも指摘されています。

防衛省――問題と対策

 次に防衛省ですが、これは自衛隊のOBパイロットで、厳密には「割愛制度」と呼ぶ仕組みが正規の運用です。昭和30年代後半ぐらいに淵源がある非常に歴史の古い制度です。陸海空の3幕の中では航空自衛隊の方が多いですが、自衛隊で第一線をリタイアする方の一部から選抜して公式な形で職業斡旋し、民間航空に再就職してもらう制度です。
 年間数十名という人数の採用が行われた年代もあったのですが、ここ20年ぐらいは年間若干名、2、3名あるいは多くて5名ぐらいの方しか制度の俎上に上ってこないような状況です。採用割合1%と書いてありますが、これが示すように、どうにも母数が少ないのです。そもそも防衛省・自衛隊自体が、国防を志す人材の総数確保に苦労しており、その中でも飛行機乗りとなると、自衛隊としても非常に貴重な人材だということです。そのような方々を少数の選抜とは言ってもある年齢に達したところで安定的に民間に転出させていくのは、防衛省側内部でも難しさがあるのだろうと思います。
 また、民間転用後は民間での機種毎の資格取得訓練があります。防衛省・自衛隊出身者の場合、飛行そのものの目的が官民で違うことから少し頭の切り替えが必要なため、訓練の合理化も一層進めないと、最終的な養成達成率は向上しません。防衛省・自衛隊パイロットは国費で養成された貴重な人材ですから身分の変化はあっても是非とも有効に活用したいところですが、民間転用については、こうした問題もあるということです。

その他――問題と対策

 「その他」というのは、上記以外の一般の方が、例えばアメリカで自家用のライセンスを取得したり、日本の民間訓練機関で軽飛行機でライセンスを取得したりするケースはあります。そのような方々の採用もゼロではありませんが、非常に少ないです。そもそも民間訓練機関自体が、教官確保の困難生や新規顧客の獲得などの面で必ずしも順調とはいえない状況です。そのため一定規模のロットでの卒業生の輩出になかなか至らないということです。

外国人――問題と対策

 もう1つ、法制度の規制合理化という視点でもって、要員を増やすリソースとして「外国人」を入れてあります。厳密には、ICAOの締約国の有効なライセンスを持っている方は、日本の操縦士免許に切り替えることが法的に可能です。

 ただ、無審査で切り替えができるわけではなく、実地での訓練・審査試験を伴います。結構な訓練量が必要なので、実はあまり即効性がありません。この点は世間と業界内で大きな認識乖離があります。従って、より規制合理化を推進していき、もう少し簡便に外国人が日本のライセンスを得られる制度にすることが望ましいと提言では書かれています。
 しかし私は養成実務にずっと昔から携わってきましたが、それだけで解決する問題でもないと思っています。外国人といっても本当に品質はさまざまです。むしろこの見極めをしっかり行わないと、日本の空の安全が脅かされるので、ここはちゃんと実地での確認を継続維持するほうがいいのではないかと個人的には思っています。安全や技術と関連しない分野での規制合理化推進は望まれるところとは思います。

60歳以上――問題と対策

 60歳以上のシニアに関してですが、この方々も有効活用していく必要があります。会社員としての定年を60歳で迎えても、日本の場合、免許を持っているパイロットは、国内運航であれば68歳の誕生日の前日まで飛べることになっています。もちろん、身体検査をきちんと受けてパスしていただく必要があります。かつ、60歳を過ぎると身体検査基準も厳しくなってきます。
 歴史的に、医療業界と航空業界、運輸行政の間では、いろいろな話し合いがあるのですが、医療基準の緩和はかなりハードルが高いのは事実です。それでも、この20~30年ぐらいを見ていると、少しずつ基準が緩和され、現実的になってきています。そういう中で、パイロットの有効年齢も少しずつ伸びてきています。かつての60歳が63歳になるところから始まり、65歳になり、67歳になって……というような経緯を経ています。今後、さらにそのあたりは医療業界と研究を進めていくのだろうと思っています。
 また切り口を変えると、パイロットの仕事は必ずしも飛ぶことだけではありません。例えば今は、シミュレーター技術が非常に進歩しているので、多くの訓練は実機ではなくシミュレーターで代替されています。当然、シニアにもそのシミュレーターを用いて教官を務めてもらうことができます。あるいは、他人の技倆をチェックする査察という役割があるのですが、これもシミュレーターの中で済む限りにおいては航空業務ではないと定義されています。だから、身体検査ライセンスが出ない人でも、シミュレーター限定の教官や査察になってもらえれば、その代わりに現役で飛行できる資格のある教官などをどんどん前線のラインに戻すことができます。そういうことも進めていけば、有効活用として非常に良いですし、要員不足に役立つのではないかと思います。

その他裾野拡大

 その他、裾野拡大をしていく上での課題です。実は国交省取りまとめの中でも言われており、別立てでも国交省が検討会まで設けられた視点に、女性活用の促進がございます。これはニュースにもなったので、ご記憶の方もいらっしゃると思いますが、航大入試でいわゆる「女子枠」の検討が行われました。今その是非を申し上げるつもりはありませんが、従来は男性の職業だと思われがちだったパイロットのイメージは、昔に比べたらずいぶん払拭されています。現実にANAにもJALにも相当な数の女性パイロットがいますが、男性の職業であるというイメージをさらに払拭していき、それにより女性にもっとなり手として意識してもらえるよう推進したいという意図が、確かにあるのだろうなと思います。それ自体は間違っていないと言えるでしょう。先ほど、私が大学で話をすることがあると申し上げましたが、最近は自社養成を目指すという女子学生も多く聴講してくれています。
 また、大学どころかさらにその前段階の中学生や高校生あたりの若い世代の人たちに、PRをしていくことも必要だろうと思います。より若い時期から、職業としてのパイロットへの意識付けを促進することが、今後はより必要になるでしょう。大学を卒業してから、職業選択としてパイロットを選ぶ場合だけではなく、操縦学科を擁する大学もあるわけですから、高校生に対する意識付けは非常に重要だと言えます。業界内部にいるとついつい意識が乖離してしまいがちですが、世の中には「パイロットは特殊な一部の人の職業」という意識が根強く存在します。元々職業選択における現実的視野に入っていないのです。ここは打破すべき壁と言えるでしょう。
 以上が、国交省答申にも書かれている、不足をどうやって埋めていくのか、ないしはどのようにして裾野拡大を実行していくのかについての、我が国で今取られている具体的な手法の解説です。

必要数を減らすための対策 (私見として参考)

 対応策の2つ目の視点、「必要数を減らす」ことについて。これはあくまでも例えばの話なので、一種のスタディとして話半分にお聞きください。

 1つは技術革新だと思います。自動化をさらに進めて、1人乗りや無人化を追求していけば、必要な要員は当然減るでしょう。次に機材の大型化。パイロットの数は変わらないので、1便当たりの輸送力を高めれば、それだけ便数が減るため効率化が図れるという考え方です。そして労働生産性です。今より働いていただくというのも考え方の1つです。
 これらについて、それぞれスタディ的に見ていくことにします。あくまで理屈の話として聞いてください。

機材大型化

 機材大型化は、業界の歴史から見ると完全に逆行しています。かつて我々の世代が入社した頃は、747ジャンボ機が飛んでおり、まさに機材大型化の時代でした。その後、大型機による大量輸送ではなく、小型機をハイフリークエンシーで飛ばし、頻度でもって路線を維持して国民の皆様の移動の足を確保していくという考え方に変わっていきました。機材が小型化すると1便に乗れるお客様の数が減りますが、基本的にはその代わりに高頻度で飛ぶという考え方に、ずいぶん前にシフトしております。今からこれに逆行するというのもおかしな話なので、まぁ、なかろうと考えます。

労働生産性

 労働生産性の話は、理屈としてはあるのですが、当然のことながら良好な労使関係が必要ですし、健康と安全を守ることが労働安全衛生法上で大前提であり、特に航空機運航の世界では、疲労管理が非常に厳しく問われ始めています。従って、現在既に全く余地がないとまでは言いませんが、この視点で人員不足解消を狙っていくという姿勢は非現実的と言えるでしょう。

技術革新

 技術革新については即ち自動化の推進です。これはもう社会受容性の成熟次第です。先ほどセミナー開始前に雑談をしていたのですが、「お客様として、パイロットが乗っていない飛行機に乗りたいですか?」と問われて「全然問題ないですよ」と今の段階で平気で言う人はそうそういないですよね、と。これはタクシーやバスなど地上モードの自動化でもそうですが、社会受容性がかなり高まってこないと、無人はおろか、1人化の推進でさえもまだ少し時間はかかりそうです。

操縦の自動化、促進の実例

 ただ、技術の部分にだけ特化すると、皆様もよくご存知のように軍用の世界では、とっくに無人化は実用化されています。よって、技術的には十分に可能な話です。こちらはWikipediaで拾ってきた写真ですが、一番右のMQ-1は、アメリカが持っていた無人の偵察機ないしは爆撃機です。すでに退役している機体であり、今はもう少し高性能のものが飛んでいるとのことです。このようなものがすでにかなり前からあります。

 中東あたりでは、空撃ドローンなどが飛んでいます。このMQ-1ですが、どのように操縦しているのか、真ん中の写真をご覧ください。これはコクピットなのですが、当然機内にあるわけではなく、離れた基地内にあるコンテナのような箱の中にあるのです。ここから遠隔で機体を操縦しています。このように、軍用では無人で十分可能であることが分かります。
 もう少し視点を変えたものが左側の写真です。実際の飛行機 (シミュレーター) のコクピットですが、通常は副操縦士が座る右側席にロボットを置いています。COP(コーパイ=副操縦士)ロボットと呼んでいますが、コロナ前ぐらいはこうした研究が結構真面目に行われていました。私自身も、某国出張時に実際に見学させてもらったことがあります。しかし、今は既にこのような目に見えるハードの時代ではなく、AIなどシステムが裏で走る時代になっているので、最近はあまり流行りではないようです。今のAIはもっとスマートな感じになっており、そもそもロボットの形をしていません。写真は少し古いものではありますが、いずれにせよコーパイ機能をAIに置き換えてしまうという考え方があるわけです。そうすると、例えば長距離国際線でパイロットが交代要員込みで3人必要なところ、1つをこれに置き換えると2人で済みます。それだけでも2/3になるので、あくまでも数字の上ではかなりの効率化が図れます。
 ただ、何度も言うように、当然ながら「搭乗旅客はどう感じるか」という社会受容性との関係があるので、慎重に考えていくべき話だと思います。軍用とは話が違うということでございます。

民間エアライン以外の状況

 最後に、民間エアライン以外の状況について、少し触れさせていただきます。これは非常に重要な必須の視点です。

 航空法では、「航空機」は「飛行機」「回転翼航空機」「滑空機」「飛行船」の4つに分かれています。とりわけ回転翼、いわゆるヘリコプターですが、これの操縦士の不足が非常に深刻な状況にあります。
 そして日本はご承知のように災害多発国です。能登の地震の時も、その他のいろいろな災害でもそうでしたが、いざあのようなことが起こった時に、飛行機は滑走路が必要で、道路は寸断されているため地上交通では被災地になかなか行けず、港湾もぐちゃぐちゃになってしまって船が入れない、ドローンも重いものや大きいものは今のところまだ運べない。なんてことになると、ヘリの活躍は非常に重要なのです。
 災害派遣、消防防災、警察業務、救急医療などで、エッセンシャルワーカーとして大活躍するのはヘリのパイロットです。無論、整備士も搭乗する救難や医療要員も同様です。実は、ヘリパイロットの不足が今、本邦で致命的な問題になっています。民間航空のパイロット不足どころの騒ぎではないと言っても過言ではありません。

 これも今、国交省ならびに関係省庁横断的な会議体で、ヘリに特化した操縦士・整備士の確保のあり方に関する検討が進められています。この認識は政官産学全てが持たねばならないものであることを、最後に付言させていただきます。

まとめ 〜今後の課題と展望〜

 総括的に本日の内容をまとめました。当局には、提言も含めいろいろなことを努力いただいております。あるいは学識経験者、有識者の方々からのアドバイスもいただきながら考えております。しかし、今の不足に対して、ないしは将来考えられる不足に対して、量的な決定打となる、クリーンヒットのような施策があるかというと、なかなかありません。


 ただ、小さな効果でも、やらないよりは当然いいわけですから、少しずつそれを積み重ねていく努力が必要なのだろうと思います。しかし残念ながら、今決定的な手段はなかなか得られません。今は想定できないような、技術的ブレークスルーが起こればまた別なのかもしれませんが、それこそ現時点では想定できないので、何とも申し上げられません。
 パイロット要員は、長期安定的に、国策の関係もあって確保しなければならないものです。航空機運航は国益に直結する大事なことなので、何とかパイロットの確保をしていきたいとは思いますが、これには航空業界だけではなく、行政やそれを取り巻く産業界、ないしは学識機関のご協力も得ていかないと、なかなか効果は得られません。
 そんなふうに感じながら、我々グループ内で日々の業務に取り組んでいるところでございます。

参考資料

 末尾に参考資料を2ページ付けておきました。今日は数字を排するという趣旨のため、あえてご説明いたしませんでしたが、国交省が公開されている資料の中で、パイロット不足が起きている状況が端的にビジュアル化されて理解しやすいものがあったので、参考として付けさせていただきました。


 15ページでは、年齢構成を示し、何年かするとどんどん山の位置がシフトしていくことを示しています。16ページでは、現在の操縦士がどんなリソースで、どんな割合で構成されているのか、またどんな強み・弱みがあるのかが分かるような資料を示しています。
 我々ANA総研はホームページを持っております。本セミナーの冒頭で田中からもご紹介した通り、研究員のいろいろなレポートもそこから閲覧できますので、ぜひアクセスいただき、研究員レポートやANA総研の活動も見ていただければと思います。もし今後、当所とのお付き合いや、お仕事として活用いただければ望外の幸せに存じます。私からは以上でございます。
 ご清聴ありがとうございました。

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