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航空空港研究レポート

-学識者による研究レポート-

人手不足・人材不足とスポットワークの活用

鎌田 裕美 氏

一橋大学 大学院経営管理研究科 教授

1.はじめに

 人手不足・人材不足は、業界や業種を問わず、喫緊の課題である。帝国データバンク(2025.10.6)によると、2025年度上半期(4-9月)の人手不足による倒産は214件で過去最多を更新した。
 各企業等ではDX推進や賃上げ等の待遇改善が実施され、また日本政府もさまざまな政策を講じている。働き方も、多様な形態が定着しつつある。スポットワークは、アルバイト・パートとは異なり、「短時間・単発の(短い時間と期間だけ働く)働き方」である(一般社団法人スポットワーク協会)i) 。企業にとっては、短期的に人手不足を補う手段となる。
 しかし、人手不足と人材不足は根本的に異なる。企業が収益性・生産性を向上するためには、数としての人手ではなく、質としての人材を育成、定着を図ることが重要である。本稿では、人手不足に対処するだけでなく、人材の定着・育成が重要であるという視点から、従業員満足やサービス・プロフィット・チェーンを概観し、スポットワークの活用について考える。

i)雇用契約を結ばないギグワークを含めた広義のスポットワークもある。一般社団法人スポットワーク協会は、雇用契約を結ぶ狭義のスポットワークを対象にしている。本稿では、同協会に倣い、狭義のスポットワークを対象に考察する。

2.人材定着と従業員満足

 人材が定着するためには、従業員が職務や就業環境に満足し、継続意思を持つことが必要である。ハーズバーグの二要因理論は、給与や労働条件など事前にある程度予測できる「衛生要因」と仕事のやりがいや人間関係など事前に予測することは難しい「動機づけ要因」をあげている。ハーズバーグは、衛生要因は満たされないと不満につながり、動機づけ要因は満たされなくても不満にはならないが、満たされることで満足につながることを提示した。
 また、サービス業で収益性・生産性が高い企業について、Heskett, et al. (1994)は図1のサービス・プロフィット・チェーン(Service Profit Chain; SPC)を提示した。SPCは、高い従業員満足により人材が定着し、高いサービス価値を提供でき、顧客満足・ロイヤルティが高まり、業績向上につながること、そして、向上した業績を再び従業員へ還元する循環である。つまり、従業員への投資の重要性を指摘している。

 二要因理論に基づけば、従業員の満足を高めるためには、賃金を上げることばかりが策ではない。むしろ、満たされると満足につながる動機づけ要因が重要である。

3.スポットワークの現状

 2025年2月現在、主要大手4社(タイミー、シェアフル、ツナググループHD、ワールドHD)に約2,200万人が登録しており、働き方の多様化などで今後も成長が見込まれる業界である(東洋経済新報社、2025)。
 株式会社タイミーは、スポットワーク業界の先駆けであり、登録者は1,100万人にのぼる。雇用者がタイミーの登録者の働きぶりを認定する「バッジ機能」を導入している。小川嶺代表取締役社長は、バッジ機能はワーカーの頑張りが可視化され履歴書の代わりになること、本質的な評価を基にしっかりマッチングすることはタイミーだから提供できる価値であると述べている(馬本寛子、2024.8.8)。このバッジ機能による評価を基に、キャリア形成や正社員への登用を支援するサービス「タイミーキャリアプラス」も提供している。また、スポットワーク研究所を設立し、スポットワークを取り巻く課題や状況を調査分析して公開している。「タイミーを通じた勤務をきっかけとした長期就業・長期採用に関する実態調査レポート」によると、タイミーを通じて良い職場と出会えたら長期就業したいという働き手は72%であり、事業者側も96.4%が良い人材と出会えたら長期で採用したいと思ったことがあると答えた。実際に、スポットワークの働き手に長期採用を打診した事業者は66.1%、採用した事業者は61.6%であった。事業者側は、短期的に人手不足を補う手段としてだけでなく、採用の手段としても活用していると言える。
 また、スポットワーク経験者がスポットワーク先での長期就業を決めた理由として多かったものは、表1のとおりである。各理由に二要因理論での分類を対応させた。動機づけ要因は事前には予測が困難であるが、スポットワークを経験することで、働き手は就業先で働くイメージがつかめる可能性がある。

 事業者にとっても、他の採用手段と比べて「すでに業務に慣れているため教育にかかる工数が削減され即戦力になる」(74.3%)、「すでに職場に馴染んでいるため人間関係の心配が少ない」(55.8%)ことをあげている。

4.「人材」を育成する必要性

 数としての人手不足を短期的に補う手段として、スポットワークは有用である。しかし、サービス業において長期的な人材定着を図るためには、「人手」の不足を補充するのではなく、「人材」を育成する必要がある。タイミーの例のように、マッチングや長期就業につなげる採用の一手段としてもスポットワークは活用できるだろう。これは、従業員満足を起点として顧客満足・業績向上へとつながるSPCの考え方とも整合する。人手不足ではなく、人材不足として課題をとらえ、サービス品質において「ヒト」の提供でなければならない部分はどこかを考慮し、それを担う人材の育成、定着を図ることが必要であると考える。

参考文献

  • Heskett, J.L., Jones, T.O., Loveman, G.W., Sasser Jr., W.E., & Schlesinger, L.A. (1994). Putting the service-profit chain to work. Harvard Business Review, 72 (2), 164–174.
  • Lovelock, C. & Wirtz, J. (2007) Services Marketing: People, Technology, Strategy, 6th edition, Pearson. 白井義男監修・武田玲子訳(2008)『ラブロック&ウィルツのサービス・マーケティング』、ピアソン・エデュケーション.
  • スポットワーク研究所(2025)『タイミーを通じた勤務をきっかけとした長期就業・長期採用に関する実態調査レポート』
  • 帝国データバンク(2025.10.6)『人手不足倒産の動向調査(2025年度上半期)』
  • 東洋経済新報社(2025)『会社四季報 業界地図2026年版』
  • 馬本寛子(2024.8.8)「フォーカス 活況スポットワーク タイミー追って群雄割拠」、『日経コンピュータ』pp.34-39.
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