-学識者による研究レポート-
西村 剛 氏
前立教大学大学院
2年前に本稿で、「ロンドン6空港を通して、関西3空港の今後の在り方を考える」を投稿したところ、「関西も関空・伊丹・神戸の3空港に但馬(こうのとり但馬空港)・八尾・南紀白浜(熊野白浜リゾート空港)の3空港を加えて、ロンドンと同じく6空港」との意見をいただいた。
たしかに空港の数上は同じであるが、最も異なる点は、ロンドン6空港がすべて「国際線の就航する国際空港」であることである。
昨年4月より、神戸空港へ近隣アジア諸国より国際チャーター便が就航し、関空・神戸の2空港が国際空港となったが、以前よりロンドン6空港は全て国際空港である。
我が国空港では国内線旅客が主体(表1ご参照)であり、EU域内やEU域外の国際線が主体のロンドン6空港とは大きくその性格が異なっている。このことから我が国観光業は後述の通り、国内観光がメインであり、新型コロナ発生時も海外からのインバウンド(訪日外国人)に頼らず国内観光客(新型コロナ発生時は県内客、以後は県外の近隣客に対象が拡大)を重視する傾向にあった。
第二弾となる本稿では、関西3空港の実績について、地域経済学の観点から地域GDPや地域雇用に与える空港の経済的効果について、特に、国際化の進展について考えてみたい。
地域経済学の考えに、「域内から稼いでいるのか、または域外からか」によって、域内市場産業と域外市場産業の2分法があり、域外市場産業を別名、基盤産業と呼ぶ。
以前の我が国では、基盤産業は長らく農業主体であったが、高度成長期に工業へ移った。関西圏では大阪湾の周りにこの基盤産業の工場群が並んでいたが、今は大半が中国やアジア各地に移転し地盤沈下を起こしている。
この工場群に代わり、新たな基盤産業として関西圏の地域経済に貢献しているのが関西圏の空港である。国内線は路線距離が一程度あり、関西圏以外と域内を結び基盤産業となっているが、それ以上に大きな経済的効果をもたらしているのが国際線である。国際線旅客のうち訪日外国人観光客は、インバウンドと呼ばれ、その支出は日本のサービスや財を購入するため、国民経済的には「輸出」に該当する。
観光庁によれば、2025年の日本人国内旅行消費額は26兆7,845億円、のべ国内旅行者数は5億5,313万人で、海外旅行消費額の10.9兆円(うちインバウンド9.5兆円)、のべ海外旅行者数5,741万人(うちインバウンド4,268万人)に対し、旅行消費額で国内が71.1%、旅行者数で90.6%と圧倒的に国内観光が主体である。
しかしながら、単価ベースでは、2025年ベースで、国内観光が一人当たり4万8,424円、インバウンドが22万9千円であり、インバウンドが国内観光消費単価の約5倍であり、関西圏のインバウンド数が増加しインバウンド支出が増えるほど関西圏GDPや雇用数の増加に貢献することとなる。
上記のとおり、空港は世界中で地域の基盤産業となっているが、影響する経済的効果や雇用面への影響は、空港自身の歴史的経緯より変容する。
滑走路延長により乗り入れる航空機が大型化する例が多いがロンドン6空港のうち、サウスエンド空港の歴史を紐解くことで航空機以外にも旅客実績が地域経済への影響が変容することを歴史的にみていく。
サウスエンド空港は、第一次世界大戦中に開設されたロンドンで最も古い空港の一つで、長らく地域航空や関西の八尾空港と同じく一般(ジェネアビ)空港として運営される地方空港であり、更に、スタンステッド空港が大規模再開発された1985年以降はあまり注目されることはなかった。
しかし、2012年のロンドンオリンピック開催に合わせロンドンの他の空港を補完する意味で、滑走路が延長され1856mとなり再度注目を浴びるようになった。現在は、他5空港の発着が上限に達しているため、LCCのイージージェットが新たに基地化するようになると近距離国際線の基地へと大きく変容をとげた。
20年前の2006年に開港した神戸空港は永らく国内線専用の地方空港であったが、昨年の大阪・関西万博に合わせて、国際線ターミナルビルが竣工し近隣諸国からの国際線チャーター便が就航すると本格的に国際空港へ変容を遂げつつある。
関西空港が上限に達すると見込まれる、2030年4月までには関西空港の受け皿として、近隣諸国からの国際定期便乗り入れが視野に入り、国際線ターミナルビルの再構築や二次交通の増強などの対策が練られている。
表2で昨年のロンドン6空港の実績を簡単に取りまとめているが、各空港とも国際線比率が高く、前述の通り、英国では国際線主体の旅客実績であり、観光面でも英国は国際観光のメッカとなっている。
特にヒースローやガトウィックでは世界最大の海外路線である北大西洋路線のメガハブ空港として世界トップクラスの国際線旅客数を誇り、スタンステッドやルートンではEU域内LCCの拠点空港として発着数も上限を維持している。
今後は、滑走路の増設や発着時間帯の増加がなければこれ以上の旅客数の増加は難しく、サウスエンド空港にイージージェットが進出した意味が理解できる。
次に関西3空港であるが、2025年に初めて国際線比率が50%を超えた。つまり関西3空港はわが国に珍しく国際線旅客が国内線旅客を超える、国際線主体の空港エリアになったことを意味する。表4には、首都圏の成田空港と羽田空港の実績も載せているが、国際線比率は5割に達せず、関西3空港の国際線の伸びがいかに大きいかがわかる。

昨年の総理発言依頼、関空の中国路線は前年の7割から8割と低迷し、関西3空港の国際線比率は再び5割を割り込むものと予想される。特に関空は首都圏空港に比べて、国際線スロット取得が容易であるためか、落ち込みが大きくなっている。
しかしながら関空や神戸空港の中国路線をカバーする中国以外の航空会社の乗り入れは今後とも予想され、中国や台湾の地政学的リスクは大きいものの、ここ数年の踊り場状況を脱すれば再び関西3空港の国際線旅客数は5割を超える状況に回復するものと思われる。
地元大阪ではGDP1割復活が悲願であるが、本稿で指摘したように、関空・神戸空港のインバウンド増加による観光消費がその原動力となるだろう。関西地域としては関空以外にも2030年春の神戸空港国際定期便化が更に後押しとなる。その後は伊丹空港の再国際化や大阪・神戸市上空の飛行ルートの見直しが俎上にのぼることは間違いなく、関西地域への海外観光需要の期待はますます高まっている。
1)日本政府観光局.“訪日外客数(2025年12月推計値)”. https://www.jnto.go.jp/news/press/20260121_monthly.html
2)観光庁.“旅行・観光消費動向調査 2025年 年間値(確報)”. https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001981854.pdf
3)総務省統計局.“まちづくりのための地域経済分析”. https://www.stat.go.jp/dstart/point/lecture/04.html
4)橘高 聡(2025)『ツーリズムの世紀 日本再興の最後のチャンス』日本経済新聞出版