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各界の声

ポストアーバン時代における都市のSpeculative Design

白水 靖郎 氏

中央復建コンサルタンツ株式会社 代表取締役社長

 20世紀は「都市(アーバン)の時代」と呼ばれ、業務中心地区(CBD:Central Business District)を中心とした階層的な都市構造が形成され、容積率緩和に基づく高容積・高度利用の再開発が進められてきました。ところが、21世紀になると、経済活動のメインプレイヤーが金融からGAFAM等のビッグテックに変わり、都市に対するニーズも変わります。高層ビルが建ち並ぶ従来のCBDは、似た属性の企業が集まるには効率的ですが、テック等が求めるイノベーションには適しません。DX社会におけるテレワークの進展や、都心の地価高騰なども相まって、既存CBDの存在意義が問われています。
 ポストアーバン時代には、フェイス・トゥ・フェイスの知的交流を通じたイノベーション活動、アート・音楽・食などのクリエイティブで文化的な活動の場が都心に必要と考えます。このため、従来の業務中心で単一機能なCBDではなく、様々な機能がミクストユース化し、隣接するネイバーフッドと融合する「共創中心地区(CCD:Central Co-creative District)という考え方が重要です。CCDについては、日本よりも一足早くCBDが疲弊した北米にヒントあると考え、昨年秋に北米4都市へ視察に行き、十数機関にヒアリングを行いました。
 例えば、マンハッタンのCBDでは、コロナ禍でオフィス需要が減少し、効率性重視の単一機能高層ビルモデルが崩壊。生活環境の悪化も進み、BIDなど既存スキームも機能しなくなりました。対照的なのは、イーストリバーを挟んで対岸に位置するブルックリン。土地利用のミクストユース化を進め、オープンスペースや水辺空間を活かしながら、地域に根差したスモールビジネスによって雇用創出と経済成長を実現し、交流と創造によるコミュニティ再生を図っています。公共セクターによるスモールビジネス支援や、スマートオーナーによるエリアマーケティングなどの仕組みも印象的でした。
 ポストアーバン時代には、このような「都心フリンジ」におけるCCD形成が重要と考えます。都心フリンジは、都心の経済圏でありつつ、都心に比べて地価が低廉で土地利用も柔軟です。このため、アイディアはあるが財力に乏しい若者やスタートアッパー等がイノベーションを起こし、成功すればCBDでビックビジネスとして育てていく。土地利用のミクストユース化を進め、オフィスだけでなく、アフォーダブルな住宅、大学、地域固有のアートや文化施設、人が集まるブリュワリーやビストロなどを呼び込みます。さらに、緑や水辺といった豊かな環境も活かし、寛容性が高い独自のコミュニティを形成します。容積緩和による高層ビル型開発ではなく、公共空間の利活用と既成市街地のリノベーションを組み合わせた再開発や、従来型エリアマネジメントとは異なる自律型のコミュニティ形成が重要と考えます。
 このような考え方は、関西が積み重ねてきた歴史、セミラティスな都市圏構造、町衆文化等と非常に親和性が高いと考えます。「関西ルネサンス(再生)を都心フリンジから」。そのようなSpeculative Designを描きつつ、実現に向けて微力ながら貢献していきます。

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