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各界の声

大阪・関西万博は何を残したのか

深澤 亮爾 氏

読売新聞記者

 「最近、中学生になる一人息子が海外留学したいと言い出した。それまで海外に全く興味がなかったのに。万博に行ってからです」。
 東京の外資系企業で働く知人の表情は真剣だった。去年の夏に家族で万博を訪れたところ、世界が一堂に会した会場の空気に子供がすっかり魅了され、日本から飛び出したいという気持ちが抑えきれないのだという。両親は仕事を辞められないから本当に留学するなら寮生活になると言い聞かせても、それでも行きたいと言い張るらしい。ただ、知人は少し誇らしげでもあった。「こういう時代だし、行かせてあげても良いかなと思ってきている。万博が息子の人生を変えたんです」
 夢洲で連日、万博を取材した者として自信を持って言える。万博の本質は「体験」にあり、数知れないこうした「出会い」のドラマにこそ万博の意義があったということだ。共同館「コモンズ」でトーゴ人スタッフから伝統楽器の奏で方を教わる子供たちの笑顔や、インドネシア館の陽気な「ヨヤクナシダンス」を取り囲んだ熱狂など、言葉が通じなくても笑顔を交わすだけで心がこんなに通じ合うものだと多くの人が学んだはずだ。それは誰もが何でも知っている気になれるSNSとAIの時代にあって、本当に大切なことは生身の体で体験しないと何もわからないという当たり前のことを改めて思い起こさせてもくれた。
 今、大阪府をはじめ各自治体や民間企業も万博のレガシーの継承を今後の施策のキーワードに挙げる。大切なことだ。だが、最も重要なレガシーは、こうした体験を通じて私たちの心に灯った目に見えない「内なる変化」の芽であることも忘れてはならない。それを「万博ロス」なる言葉で片付けてしまってはもったいない。
 開催が決まる過程で政府の側に明確な国家戦略があったとは言いがたい万博ではあったが、民都・大阪だからこそ、その真価もこれから市民一人一人に問われていくと考えるべきだ。万博が、関西が世界に大きく開かれる契機だったと評価される未来を見たい。

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