内山 智彦 氏
産経新聞大阪報道本部部次長(現和歌山支局長)
関西3空港(関西国際、大阪、神戸)で、発着容量や国際線の受け入れ能力が拡大されて半年が過ぎた。拡大後の4~9月の実績は、関空国際線の旅客便発着回数、旅客数とも今年度上半期実績で過去最高となった。飽和状態に近づいていた国際線の能力拡大に向けた取り組みが、狙い通りの成果をあげたといえるだろう。
今年2月、発着容量拡大を控え、準備に追われる関空の管制塔を取材した。眼下に広がる滑走路では、離陸を待つ航空機が列をなす。約90メートルから見下ろす2本の滑走路は壮観だ。
それにしても滑走路が2本あってよかったー。関空関係者が折に触れて話す感想だ。4千メートル級滑走路2本を備える国内初の空港。だが、第2滑走路が整備された約20年前に取材していたころは、無駄の象徴とされ「3大バカ事業の一つ」とこきおろされたこともあった。需要が伸びないなか、神戸空港が開港することも風当たりを強くした。
当時は、第2滑走路整備の「条件」とされた年間発着回数13万回程度の達成が関心事だった。毎月の発着実績をもとに、このペースでは達成は微妙などと予測する記事が踊った。
旧関空会社の社長だった村山敦氏は「韓国・仁川空港は開港から10年弱で3本の滑走路がある。航空需要の増減をごちゃごちゃ論議している日本には、長期的な戦略が、空港にも航空会社にも行政にも欠けている」と嘆いた。仁川空港は、アジア最大級のハブ空港として定着している。
関空と大阪(伊丹)空港の経営統合のため設立された新関空会社で初代社長を務めた安藤圭一氏は、産経新聞の取材に「諸外国は空港の容量不足が国の成長のネックになってはいけないという意識が強い。むしろ過剰気味の能力を持ち、海外需要を取り込むとの考えだった」と振り返った。
空港しかり、発電所しかり、巨大インフラの整備には数十年単位の時間軸が必要だ。世紀の難工事、黒部ダムと黒部川第4発電所(クロヨン)の着工翌年には、ダムの完成を待たずして早くも国内9電力会社初の原子力発電所建設に向けた準備が関西電力で始まっている。その後に増大する電力需要を支えたことは間違いない。日本の大動脈、東海道新幹線も、着工前は賛否両論に分かれ「時代錯誤」と批判する声が強まった。
関空2期事業とともに3大バカ事業とされた「東京湾アクアライン」「本州四国連絡橋」が不要だったという声は、今ではほとんど聞かれない。開幕前は不評だった大阪・関西万博も閉幕前には「ロス」を呼んだ。
事業性は厳しくチェックされなければならず、無駄には目を光らさなければならない。一方で、大プロジェクトには長期的な視点に基づいた構想力と大胆な決断も必要だ。最後は歴史が判断することになるのだろう。関空に2本の滑走路があってよかった、関西3空港があってよかった、を持続的にするためにさらなる努力が求められる。
このコーナーへの原稿依頼をいただいた後、和歌山へ異動になった。南紀白浜空港では目下、県が悲願の滑走路延伸へ取り組みを続けている。この10年で利用者は倍増、今春には特定利用空港となり10月に自衛隊の統合演習を受け入れるなど布石を打つ。こちらも信念をもって未来図を描き、粘り強い取り組みが必要だ。