多々納 裕一 氏
京都大学防災研究所 教授
連日、酷暑が続いている。体温を超えるような気温になる日も珍しいことではなくなってきた。今年は、梅雨が短く、あっという間に夏がやってきた。これは、気候変動に伴う影響であるという解説も今や当たり前になってきた。IPCCの第6次評価報告書では、「二酸化炭素(CO2)をはじめとした人為的な温室効果ガスの排出が地球温暖化を引き起こしたことに疑いの余地はない」としている。
地球全体のCO2濃度は年々上昇しており、2015年には400ppm(0.04%)を超えた。過去に400ppmを超えていたのは300万年以上も前であり、CO2濃度はこれまで人類が経験したことがない水準に達しているのである。
2016年11月に発効したパリ協定では、産業革命以前の全球平均気温に対して1.5度以内の気温上昇にとどめるための国際的な協力枠組みが合意された。この目標を達成するためには、温室効果ガス排出量を2030年までに半減し、2050年までに実質ゼロを達成する必要があるとされている。2011年から2020年までの全球平均気温はすでに1.09度上昇しているから、温室効果ガス排出量を削減し、気候変動の影響を緩和しようと緩和策だけでは不十分で、気候変動が顕在化した状況への適応を可能とする対策(適応策)も重要となる。1.5度上昇にとどめることに成功した場合ですら、現状よりも全球平均気温は高いから、極端な気象の発生確率は高くなる。このため、熱波、旱魃、豪雨、洪水、大型の台風など、災害をもたらしかねない災害が顕在化すると警告されている。
我が国においても、第6次エネルギー基本計画が策定され、需要サイドの取組や再エネの導入等の方向性が示された。航空分野の脱炭素化に向けては、「①機材・装備品等への新技術導入、②管制の高度化による運航方式の改善、③SAFの導入促進、④空港施設・空港車両のCO2排出削減等の取組」が位置づけられた。これらの緩和策が着実に実施され、温室効果ガス削減目標が着実に実施されるよう期待するものである。
2018年台風21号は最大瞬間風速58.1mを記録し、5mもの高波が護岸を超波し、関西国際空港の滑走路やターミナルビル、地下電源設備などが浸水した。タンカーが連絡橋に衝突し、空港へのアクセスにも影響が生じた。この災害を受け、護岸のかさ上げ等の対策が実施されてきている。
台風がもたらす災害のうち、最も警戒すべき現象として、海面が台風による気圧低下のために吸い上げられるために生じる高潮を上げることができる。2018年の台風21号の場合は、幸いにも高潮による被害は免れた。気候変動は、台風の発生数を減少させる傾向はあるものの、大型の強い台風に限ればその頻度は増すと考えられている。
2011年3月の東日本大震災は、地震、津波災害に続いて、福島第一発電所の過酷事故を招いた。その秋の国際会議で、信頼性工学の大家で原子力発電所の設計・評価にもかかわっておられたS教授のご講演でのお話が忘れられない。「過酷事故を最終ノードとしてその発生確率を極小化するような対策を取ってきた。しかし、今回の事故のことを考えると、過酷事故の先をもっと検討しておく必要があった。このことが悔やまれる。」
言うまでもないが、リスク管理と危機管理は、災害管理の両輪である。空港においても気候変動緩和策・適応策を今後さらに充実していかなければならない。気候変動の状況に応じた防御水準の改定などを含む適応的なリスク管理と、堤防高を超える高潮に見舞われた場合の対応など、過酷事故に相当する事象を念頭に置いたBCPの充実など危機管理体制のさらなる充実が求められる。