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航空空港研究レポート

-学識者による研究レポート-

国内航空市場における事業運営の持続可能性と非対称規制

手塚 広一郎 氏

日本大学経済学部

1.国内航空市場の競争環境

 現在,国内航空市場の事業運営での持続可能性が,航空政策の主要な論点の1つとなっている.国土交通省航空局では2025年より「国内航空のあり方に関する有識者会議(以下,「有識者会議」)」が設けられ,検討がなされている.いうまでもなく,事業運営の持続可能性が担保されるためには,安定した収益性の確保が求められる.「有識者会議」では,そのための方策が様々な角度から議論されており,その中には企業間の協調行動を促す内容も含まれている.
 収益性の確保に関連して,特定の路線で赤字が生じる一方で,他の路線では黒字であるような場合,企業全体としてみると,前者の損失を後者の収益で補てんする形となる.これは,いわゆる内部補助1)と呼ばれるものである.内部補助が機能している市場であれば,特定部門の赤字が事業の持続可能性に直ちに影響を与えることはない.
 実際,現時点では,規模の大きな航空事業者は,相対的に採算性が高いとされる国際線の収益から国内線で生じた損失を補てんするという形で,内部補助をすることが可能である.しかしながら,国内線を中心とした中小規模の航空事業者は,そのような内部補助ができない.近年の原油高などの外生的要因も重なり,厳しい経営環境のもとで国内航空事業の収益性を安定化させることは喫緊の課題となっている.
 さらに,国内航空事業の収益性は,当該市場での競争環境にも多く依存する.通常,望ましいと考えられる市場競争の環境下では,平均費用を下回らないような形での(いわゆる限界費用による)価格付けがなされる.しかしながら,規模の経済があり長期平均費用が逓減するような市場や略奪的価格設定が行われている市場では,平均費用ないしは原価を下回る価格付けがなされることがある.この場合,ライバル企業の市場からの退出という意図を含んだ破滅的競争が生じることがある.
 こうした極端な低価格競争は資源の浪費や事業者の共倒れなども誘発する恐れがあり,望ましいとはいえない.そのため,独占禁止法上でも不当廉売2)のような「正当な理由がないのに,原価を著しく下回る対価で商品やサービスを継続的に供給し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為3)」を規制しているのである.


2.新幹線と国内航空との競合と非対称規制

 鉄道事業との競争に関連して,国内航空では新幹線と競合する路線の運賃を低く設定する傾向があることが指摘されている.このことは,新幹線と国内航空の競合する路線との間で価格競争が生じておることを示唆しており,新幹線の料金が相対的に安価であるために,競合する国内航空市場の運賃も低く設定せざるを得ない状況になっているのである.
 第1回の「有識者会議」にて日本航空と全日空の示した資料によれば4),日本航空は,羽田地方の路線群別単価について,図1のように,新幹線競合と競合以外では差があり,単価が上がらず恒常的に赤字状態が続くため,対応が必要であると述べている.同様に,全日空も,地上交通との競合路線は単価が上がらず(図2),需要の低い日付・便において訴求力のある価格で販売する戦略を取らざるを得ず,国内線マーケットは供給過多の状態である,と指摘している.



 

 それでは,新幹線の運賃・料金が,鉄道事業者の経営戦略の観点から意図して現状の低い水準に抑えられているのか,といえばそうではない.このような状況が生じる主たる理由は,現行の総括原価方式による価格規制の下で,新幹線特急料金を鉄道事業者が自律的に設定できない点にある.現行の運賃・料金制度の下で,新幹線特急料金が結果として政策的に低く設定されている,という表現がより現状に近いと考えられる.
 周知のように,鉄道事業は総括原価方式の下で価格が規制されており5),その価格は運賃と料金に大別される.前者の運賃は,「人又は物品の運送に対する対価」であり,後者の料金は,「運送以外の設備の利用や付加サービス、役務の提供に対する対価」とされる.運賃は,総括原価方式の下での上限認可制が課されている.この上限設定には認可が必要である.ただし,認可された上限の範囲内で届出により運賃を設定・変更が可能である.その一方で,新幹線以外の特急料金,座席指定料金,グリーン料金は,事前届出制となっている.容易に確認できるように,認可制は行政からの承認がなければ,効力を発しない分,届出制より強い規制である.
 国内航空運賃が届出制であるのに対して,鉄道の普通旅客運賃は認可制である.さらに,新幹線特急料金に限って言えば,通常の特急料金とは異なり,普通旅客運賃と同様,上限認可制が課されている.したがって,新幹線の運賃・料金は,国内航空運賃と比較して強い規制が課されており,両者への規制は非対称である,と解される.ここでは,航空と新幹線の価格規制の内容が異なることを非対称規制と呼ぶことにする.
 上限認可制によって,新幹線特急料金を下げることは容易にできても,料金(の上限)を引き上げることは,容易にはできない.さらに,こうした新幹線特急料金は基本的に上限に張り付く傾向にある.この状態を航空の立場から見れば,新幹線特急料金が,相対的に低い水準に固定されていることになる.したがって,航空会社もそれにあわせて新幹線と競合する国内線の航空運賃を低く設定することになる.
 以上のことは,非対称規制の下で,新幹線特急料金への上限認可制が,競合相手である国内航空の運賃設定と収益構造に影響を与え,結果として国内航空のビジネスの持続可能性やモード間の競争環境に負の影響を及ぼしていることを示唆している.最近のインバウンドの増加などの諸要因によって新幹線の需要が供給容量以上に増加し,混雑が慢性的に発生しているならば,それによる経済的な損失が生じていることになる.これを是正するためには,鉄道事業の側の非対称規制を見直し,新幹線特急料金に対しても,ダイナミックプライシングのような値上げも含めた弾力的な料金設定を可能にすることが望ましい.そのためには,上限を十分に引き上げるか,事前届出制の範囲の拡大のような,制度自体の見直し6)が求められるであろう.

 

3.むすびにかえて

 国内航空と新幹線のモード間の競争において規制の非対称性があるような状況,すなわち一方の市場で競争がなされているにもかかわらず,もう一方の市場では上限認可制によって価格が低く設定されており,なおかつ後者の市場で混雑を生じているような状況であるならば,適切な価格付けができるような形に是正する必要がある.実際,鉄道分野の新幹線特急料金の規制のあり方を見直すことは,国内航空市場の事業運営の持続可能性を高めることに寄与するだけでなく,国内の交通市場において健全なモード間の競争を促し,社会的利益を高めることが期待されるのである. 付記することとして,事業運営の持続可能性を確保するためには,他にも検討すべき様々な事項がある.例えば,上述のように,規模の経済性が存在する市場での低価格競争は事業者の過剰投資による資源の浪費や共倒れなどを誘発する恐れがある.こうした問題を防ぎ社会的利益を高めるために,国内航空事業者間においても一定の「協調」が要請されるかもしれない.この点については別の機会に述べることとしたい.

 

参考文献

  • 小田切宏之(2025)『競争政策論:第3版』日本評論社.
  • 杉山武彦(1985)「内部補助の意義と問題点」『運輸と経済』第45巻第9号,pp. 55 – 61頁.


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1) 内部補助は,独占的運営権を付与された事業に対して,政策として,採算部門から不採算部門へ補てんが事業者に要請されるケースがある.これは社会的内部補助とも呼ばれる.ここでは政策的な要請だけではなく,事業者の経営判断のケースも含めて,採算部門から不採算部門への収益の補てんする行為の全般を内部補助と呼ぶことにする.なお,内部補助については,特に社会的内部補助のあり方を中心として多くの文献がある.さしあたって,杉山(1985)を参照されたい.

2) 不当廉売のような過度な低価格競争に関する課題を法と経済学(産業組織論)の見地から議論したテキストとして,小田切(2025)を挙げる.

3) 本文は,独占禁止法第2条第9項第3号をもとに書き下した.

4) 国土交通省航空局「第1回国内航空のあり方に関する有識者会議」
 https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk4_000020.html

5) 運賃・料金の説明については,以下のページを参考にした.
 国土交通省鉄道局「鉄道の運賃・料金について」
 https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk6_000035.html

6) ただし,その場合には,新幹線特急料金が「支払わなくとも鉄道輸送の利用が可能であるもの、支払わなければ鉄道輸送の利用が不可だが高額ではなく利用者の利益に与える影響がそれほど大きくないと考えられるもの」に該当するかの議論も別途必要になるであろう.

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