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航空空港研究レポート

-学識者による研究レポート-

近年のイベントが航空会社の株価に及ぼす影響についての予備的検討
航空貨物イベントを中心に

朝日 亮太 氏

福岡大学商学部

1.はじめに

 コロナ禍以降、航空会社は旅客輸送以外の事業の強化を進めている。航空貨物事業もその一つであり、日本航空はヤマトホールディングス(以下、ヤマトHD)との貨物専用機の共同運航を開始し、また新たに自社で貨物専用機の導入を行った。全日本空輸は日本貨物航空(NCA)を買収し、航空貨物事業の整理・統合を進めている(ANAHD、国際貨物を再編 2子会社統合、拠点を集約 営業益300億円上積 2026/03/24 日本経済新聞 朝刊 17ページ)。航空貨物による売上の規模については、両社のホームページ等によると10~15%程度となっている。
 現在、米国の関税政策、中東でのイベントなどにより国際情勢が目まぐるしく変化している。そして、これらは貨物輸送に大きく関係する。例えば、中国から米国の航空貨物の多くは越境ECによるものであったが、米国のデミニミス廃止は航空貨物量を減少させたとされる(「日本海事新聞2026年01月05日 デイリー版5面 航空貨物トランプショック(2)航空貨物:中国発EC、米国以外にシフト。輸送需要、変化進む」)。また、中東は航空貨物輸送にとって、重要なハブとなっており、情勢の悪化は中東を経由した欧州・アジア間の航空輸送に大きな影響を与えているとされている(中東ハブ空港の停止、世界の物流に打撃 JALは旅客便で代替輸送2026/03/11 11:00 日経速報ニュースアーカイブ)。しかしながら、世界の経済活動が停止しているわけではなく、貨物の輸送には代替ルートが用いられる。そのため、航空会社によっては、スペースの圧迫による運賃上昇により業績にプラスの影響を受ける可能性もあり、航空会社の業績を上昇させる可能性がある。一方で、国際情勢の悪化は燃料価格の高騰を生じ、航空会社の業績を悪化させる可能性もある。航空会社が航空貨物事業を拡大するなか、こうしたイベントが航空会社に与える影響は大きくなる可能性がある。
 以上を踏まえ、本稿では、イベントスタディを通じて、近年の航空貨物輸送に影響があると予測されるイベントが、航空会社の株価に及ぼす影響について予備的に検討する。


2.先行研究と今回対象のイベント

 イベントスタディによる研究は様々な分野で行われている。交通分野においては、例えば、手塚(2001)が規制緩和の影響について分析している。航空貨物関連の研究としては、朝日(2024)がある。ここでは、旅客系のイベントと貨物系のイベント間における株価への影響に言及し、旅客系のイベントのほうが株価への影響が出やすく、貨物系のイベントはそれほど影響を与えないことを示唆している。
 今回は2021年4月20日から2026年4月16日までのデータを用いる。日本航空と全日本空輸の株価、Topixの終値のデータはFinancialQUEST2.0から入手し、朝日(2024)の手法をもとに記述的に分析する。これらの株価から株価収益率を算出し、異常リターン(AR)を求め、イベント日からT日後までのARを合計していき、累積異常リターン(CAR)を見ることで、イベントの株価に与える影響について検討する(数値算出の詳細については朝日(2024)を参照)。
 今回対象とした主なイベントは、第一に米国の関税政策に関するイベントである。米国による関税政策は米国への航空貨物輸送に影響を与えることが考えられるためである(早川和伸・椋寛(2025)「トランプ関税の政治経済学」『アジ研ポリシー・ブリーフ』https://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Reports/AjikenPolicyBrief/241.html、2026年4月29日閲覧)。具体的には、①トランプ氏の大統領選勝利(イベント日2024年11月7日)、②日本への相互関税の発表(2025年4月3日)、③日本との関税合意発表(2025年7月23日)の3つのイベントについて取り上げる。そして、中東のイベント(2026年2月28日)に関する影響について言及する。次に、航空会社の個別イベントとして、全日本空輸に関して、中国当局からのNCA買収認可(2025年7月1日)とエア・インチョンとの共同運航(2025年9月16日)、日本航空に関してヤマトHDとの貨物便運航開始(2024年4月11日)とヤマトHDとの羽田空港発着の貨物便路線拡大に関するイベント(2024年8月1日)について考察した。今回のイベント日は、日系速報ニュースアーカイブからイベントニュースが配信された日をイベント日(0日目)としている。なお、中東情勢に関するイベントについては、土曜日に発生した関係で、前日をt=0として扱っている。


3.検討結果

 図1は、イベント①~③に対する日本航空と全日本空輸のCARの平均値を示したものである。これらからは、米国の関税政策に対して、航空会社の株価は大きな負の影響を受けていないことが示唆される。理由としては、日本における関税政策の関心が自動車関連に向いており、航空業界への影響が考慮されなかった可能性がある。一方で、のちに医薬品に関する関税の情報が出た際には、株価への負の影響が観測されている。これは記事の中で航空業界への影響について言及があった点が影響した可能性もある。この点を踏まえれば、関税政策関係イベントの影響がなかった理由として、航空貨物の輸送品に関する情報が投資家の間で十分にないことも考えられる。また、これは航空会社の主要事業として貨物事業がまだ認識されていないことを示唆しているかもしれない。これらに比べ、中東情勢イベントからは大きく負の影響を受けている。これは貨物だけではなく、燃料価格の上昇を意識したため生じていると考えられる。



 図2は日本航空と全日本空輸の2つのイベントについてのCARを示したものである。ヤマトHDとの貨物専用機の共同運航開始について、株価に対して負の影響をもたらしている。一方、羽田空港への路線拡大については、開始当初以降は、株価に対し負の影響を与えていない。これは、運航開始という新規事業開始にくらべ、その後の路線拡大というイベントが投資家から大きなリスクとして見られなかった可能性を示唆している。


 全日本空輸について、NCAの買収認可イベントは株価に対して正の影響を与えている。この要因として、この案件については、数度にわたって延期され、今回それが認められたという点から経営上の課題が1つクリアになったということ、もしくは貨物事業拡大に対する期待が現れたことが要因であるかもしれない。一方でエア・インチョンとの共同運航便開設のニュースについては、翌日のみプラスの影響が見られたが、その後はマイナスの影響となっている。これは、買収イベントと共同運航イベントのインパクトの違いを示すものと考えられる。買収は経営に直接大きな影響を与えるため、大きなインパクトを持ちやすい。共同運航便については、経営への影響が小さいと考えられ、インパクトは小さいと考えられる。日本航空とヤマトHDの協業に関する考察を踏まえれば、投資家は共同運航開始などの新たなイベントに対してネガティブに反応する一方、それらを拡大するというイベントについては事業が順調であるとの認識を持つようになり、結果、株価に対してイベントがプラスに働く可能性もある。


4.さいごに

 本稿では、航空貨物事業に関係するイベントが航空会社の株価に与える影響について記述的に考察した。朝日(2024)と比べると、航空貨物事業について投資家の認識に若干ながら変化が生じている可能性も示されている。しかしながら、中国からの渡航制限に関するイベントについて同様の分析では、株価への長期的な負の影響が観察されるため、航空会社の主要事業は旅客であるとの認識は変わっていないと考えられる。
 今回の分析については、簡易的なものにとどまっている。今後、統計的検定を実施するなど分析を進め、イベントや公開された情報の精査などを継続的に行い、航空貨物事業に対する投資家の認識、航空貨物輸送の発展要因などについて明らかにしていきたい。


参考資料

  • 朝日亮太(2024)「航空貨物関連イベントの株価への影響に関する分析 -イベントスタディによる考察-」『海運経済研究』第58号、pp.41-50
  • 手塚広一郎(2001)「株式市場に見る経済的規制の緩和による影響―航空産業を事例として―」『交通学研究』、第44巻、pp. 61-70
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